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 鬼機関で死人が出ることは多々あるが、規模と戦力を考えれば少ない方だと思う。その最たる原因が、花魁坂さんの存在だ。彼は治癒の能力を持っており、多くの鬼を瀕死から重症くらいには回復させる。最終的には前線を外れることになっても普通の生活ができるくらいになっていることが多いのだから、彼に助けられた人の数は知れない。かく言う私も、花魁坂さんに毎回助けられている内の一人である。怪我をして運び込まれた時、花魁坂さんの顔を見ると安心する。まるで子供の頃よく寝ていた布団に横たわった時のような、優しい感覚が蘇る。花魁坂さんの血を分け与えられると、それだけで全身の細胞が活発になるようなイメージがわく。その熱を、私は恋だとも思うようになっていた。花魁坂さんの能力の効果を変に受け取っているだけかもしれない。だが、血を分け与えられている時以外でも私は花魁坂さんに会うと同じような熱を抱くのだった。私の心が、恋をしている証拠だろう。
 私が瀕死で喘いでいた時、何日もの張り込みでやせ細っていた時、大怪我をした時、花魁坂さんは温かく私を迎え入れてくれる。いつしか、私はそれを楽しみにしていた。もちろんその態度が上司である無陀野さんにバレないはずがない。
「お前、わざと怪我してるだろう」
 鬼ヶ島の一角に呼び出され、次いで言われた言葉に私の肝が冷える。みんなが命をかけて戦っているのだ。わざと怪我をするなど、死んでいった仲間を愚弄しているのも同じだ。花魁坂さんの力にも当然限りはある。私がしていることは、資源と労力の無駄遣いなのだ。
 何と言えばいいかわからず黙り込む私を図星だと受け取ったようで、無陀野さんは目を閉じた。
「恋愛は否定しない。だが戦いには持ち込むな。次同じことをしたら俺からあいつにお前に気持ちをバラす」
「はい……」
 怒られて当たり前、むしろここで歯止めが効いてよかったのだ。私がわざと怪我をして病床を埋めたせいで誰かが死んでからでは遅い。無陀野さんが恋愛に理解があるというのが意外だったが。
 もしかして、無陀野さんから花魁坂さんに告げてもらうのもアリなのではないだろうか? 私の中でとある可能性が浮上する。もうわざと怪我をしようとは思っていない。でも、無陀野さんが私の代わりに花魁坂さんに気持ちを伝えることがやぶさかではないのなら、それ以上に楽なことはない。二人は仲がいいらしいし、私は花魁坂さんに直接伝える度胸がない。花魁坂さんに告白して、返事をされる前に「察してよ」というように微笑まれたら告白をなかったことにしてしまいそうだ。多分、花魁坂さんはそういう態度が上手い。
 だが果たして、無陀野さんは告白に慣れているのだろうか。人に委ねる身でありながら、私は失礼なことを考える。無陀野さんと乙女心は正反対に位置するものだ。まるでハワイと白熊のような。私に配慮していい空気の時に告白するかどうかは怪しい。それどころか二人きりですらなく、部下の前で告げてしまいそうだ。無陀野さんにはそういう可能性がある。
「すみません、無陀野さんって恋愛経験ありますか?」
 すっかり無陀野さんに告白を任せる気で私が尋ねると、無陀野さんが恐ろしい顔で「あ?」と言った。そういえば、私は怒られている最中なのだった。なのにどうして、上司に告白させる気で、上司の恋愛遍歴を尋ねているのだろう。
「少なくとも自分の恋愛のために病床を埋めるような馬鹿頭とは違う」
「そうですよね、すみません……」
「だったら早く言え」
 私は思わず顔を上げた。目の前の無陀野さんの表情から内心は読めないが、もしかして私の恋を応援してくれているのだろうか。
「無陀野さん、それって」
「これ以上お前のせいで医療部隊の負担を増やしたくないだけだ」
「ですよね……」
 無陀野さんは私を応援してくれているわけではない。花魁坂さんにそれとなく伝えてくれるわけでもない。だからと言って、私はもう怪我をして花魁坂さんに会おうとはしない。次に会う時は、デートのお誘いをする時だ。
「ディナーのお誘いしてきます!」
「まずはランチにしろ」
 そう言った無陀野さんは、意外にも恋愛観がしっかりしているのかもしれない。