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名前は念能力を持っていた。けれども、ハンターでも幻影旅団のメンバーでもなかった。自らの体に宿った念能力の使い道は、せいぜい子供の前で披露して賑やかしにするくらいだ。完全に使い道を間違えていると思う。名前の念能力の珍妙さを知れば必ず世界中の後ろ暗い奴らが目をつけるし、名前を従わせようと力を振るってくるだろう。
だから、オレは名前に戦う術を授けた。対戦相手を用意して、名前に叩きのめさせた。背中が地に着くくらいではやめさせず、息の根を止めるまで戦わせた。実際にマフィアなどに狙われたら、生きて帰してやるような生ぬるさでは到底生き残れない。
名前は初めて人を殺した時に嘔吐し、二人目、三人目になっても吐き続けた。目の前にある血まみれの、誰とも知れない死体に比べたら名前の吐しゃ物なんて大して汚くはないので気にしていなかった。けれどそれは確かに、名前の体の拒否反応だったのだ。
オレが名前に人を殺させることを繰り返して十数度目に、名前はオレに縋ってきた。
「私、もう誰も殺したくない……っ」
名前の目には涙が浮かんでいて、オレは初めて名前の心の奥底に触れられた気がした。名前は本気でオレに縋っているのに、オレは名前の本心を垣間見られたようでぞくぞくしていた。そのにやけが顔に出ていたのか、オレは名前の頼みを了承したものと思われる。名前には引き続き殺しをさせるつもりだったので困ったものだ。
「そもそも、何でその子に殺しをさせたいの?」
一連の話を聞いた後、ヒソカは指先で髪をいじっていた。オレの話にあまり興味がないのだろう。オレは名前に興味があるというかどっぷりと浸かっているけれど、ヒソカはそうではないのかもしれない。知り合いの知り合いなんて、所詮そんなものだ。
「名前はいつか強い奴らに狙われるから。その時に自分の身を守れるようになってほしい」
ヒソカは髪の毛から目をそらし、足元の草をちぎった。そのまま息を吹きかけて、草葉の揺れを楽しんでいるように見える。ヒソカのような奴に狙われたら、名前も簡単に命をむしられていいように使われてしまう。オレは横で見ていて確信した。
「それも愛の形だと思うけど、キミが横で守ってやればいいんじゃないのかい?」
「『愛の形』?」
オレがヒソカの言葉の前半に反応すると、ヒソカはやや拍子抜けしたような顔をした。ヒソカの伝えたいことは話の後半にあったのだろう。だがオレの意識は、「愛」という言葉に惹きつけられていた。オレが名前に人を殺させるのは、愛なのか? 愛ゆえに名前が吐くほど嫌なことをさせているのか? オレは名前を、愛しているのか?
そう考えた瞬間、オレの胸の中にすっと透き通った風が吹いた。多分自分の気持ちの輪郭をしっかりと自分の手で掴み、なぞることができたからなのだろう。オレはヒソカに礼を言って、名前の所に向かった。ヒソカは最後まで奴らしくなく戸惑った表情をしていた。
「名前、オレは名前を愛しているよ」
オレと名前が向かい合ったのは、名前が俺にもう殺しをやめさせてほしいと懇願した時以来だ。名前からしたら、その答えだと思われるだろう。そうでもあるのだけど、今の答えはオレと名前に関する今までのすべてのことに対する答えだ。関係性を変えたいからではなく、オレが名前に伝えておきたかった想いだ。
オレは、名前がこちらを見上げる瞳を見た。表面に涙が張り詰めて、まつ毛が震えている。また、名前の裸の心を見られた気分だ。オレの胸の熱が、じくじくと上がっていく。
「愛してるって言えば、言う通りにすると思ったの?」
その時名前が俺にぶつけた感情は、たまに会う友達に向けるよそよそしいものではなかった。吐しゃ物も、怒りも苛立ちも見せた相手へのむき出しの感情だった。オレはもう名前が殺しを続けるかどうかはどうでもよくなっていた。ただ名前に、果汁の滴るような生身の感情をぶつけてほしいと思った。口角を上げるオレに、名前はまた叫び声を上げた。
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