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「本当に好きなんだな? 一時の気の高まりじゃないな?」
現在、私は佐久早くんに顔を近付けて睨まれている。その上で、私の「好き」な気持ちが本物であることを厳重に確認されている。場所は人通りの少ない中庭の端で、このスポットすら人に見られないよう幾重にも計算されたものだと思う。そう、今回私をここに呼び出したのは、佐久早くんなのだ。
昼休みに呼び出しに応じた私に佐久早くんは片手を挙げ、「来てくれてありがとう」と礼を言った。普段猫背のイメージがあるから、背筋をまっすぐにしている佐久早くんに見慣れない。多分教室では後ろの席の人に気を遣っているだけなのだろう。背が高いのも大変だ。
私の思考がややそれていった時、佐久早くんは「それで」と空気を引き締めた。昼休みに人気のいない場所に呼び出されて、何の話かは大体想像がつく。佐久早くんはこれから告白をするぞと、言わば私に宣言をしたのだ。
「俺は苗字さんが好きなんだけど」
佐久早くんは一度そこで言葉を切り、マスクをとる。一応こういう場ではマスクを外すらしい。フルフェイスに猫背ではない佐久早くんは相当レアだ。私が佐久早くんに好かれているから見られるのか。佐久早くんは私が好きなのか。漸く実感して、血の巡りが速くなる。佐久早くんはマスクのゴム紐を片耳にかけたまま告げた。
「苗字さんはどう?」
求められているのは、告白の返事だろう。私は決して佐久早くんが嫌いではないし、気になっている部類でもある。というか、私のクラスの女子は強豪のバレー部のエースの佐久早くんを多かれ少なかれ気にしていると思う。私に至っては、ミーハーな気持ちをはみ出している可能性すらある。佐久早くんの連絡先は送る用もないのにお気に入りに登録しているし、何ならクラスのアルバムの佐久早くんの写真だけ何枚も保存している。今まで言語化してこなかっただけで、私は結構佐久早くんが好きかもしれない。
「私も佐久早くんが好きだよ」
佐久早くんの言葉に応える形ではあったが、こうして付き合うことになりハッピーエンド、と思っていた。だが佐久早くんの追及が始まったのはここからだ。冒頭のセリフに戻り、私の好きな気持ちが気の迷いではないか、ファンのようなものではないかと何重にも確認した。私は遊び人だと思われているのだろうか。佐久早くんのような人を手玉にとって遊べるようなルックスではないのだけど、佐久早くんにはどう見えているのだろう。
「好きだから、本当に好きだから、付き合わない?」
気付いたら、私の方が告白しているみたいになっている。今日私を呼び出したのは佐久早くんで、告白したのも佐久早くんなのに、彼に本気だと示さないとその次へは進めない。慎重と言えばいいが、強烈なブロック体制が敷かれている。
「苗字さんがどれくらい俺のことを好きか証明できるか」
これくらい、と両手を広げたら無言の空間が続くことは想像できる。この質問の模範解答は何なのかと思いつつも、私は佐久早くんと付き合うためなら必死だった。
「今ここでキスとかできちゃうくらい好き」
「言ったな」
佐久早くんはポケットに手を突っ込んだまま、背を折り曲げた。佐久早くんの顔が近付いてくる中、さっきマスクを外したのはそういうことだったのか、と遅れて理解した。ところで、このキスが終わったら私達は付き合っていることになるのだろうか。流石に私もキスまでしたら本気だと思われたい。佐久早くんに私の本気を認めさせるまで一緒に過ごしていたら、もう恋人としてのステップを全部済ませてしまいそうだ。そうやって私達は、交際ゼロ日婚でもするのかもしれない。たった一つのキスで、私はそんな未来を夢見ている。それくらいみずみずしく、若いくちびるだった。
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