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「いらっしゃいませ」
 その人は、毎月、決まった日にちと時間に訪れる。そして毎度同じ花を買っていく。ただでさえ気難しそうな人である上に、四大貴族の一人だ。簡単に話しかけられる人ではないけれど、最初に口を開いたのは案外朽木様からだった。
「故人を思い出すとその人の元に花が降るというのは本当だと思うか」
 私は驚いた。まさか朽木様が、そのような迷信めいたことを本気で口に出すとは思わなかったからだ。そんな迷信に縋りたくなるくらい、朽木様はこの花を送る相手を愛しているのだろう。そして、その相手は既に亡くなっているのだろう。
 核心には触れずにいながらも、私達は次第に会話をするようになった。元々繁盛している花屋ではない。朽木様のような懐に余裕のある人が、単価の高い花を買うことで成り立っているような店だ。他に誰もいない静かな空間は、世間話をするのにちょうどよかったのだろうと思う。
 そんなある日、朽木様は曇った表情で花を机に置いた。今日はどうしたのだろうと思いながら、私はその花を包んでいく。
「何かあったんですか?」
「家の者に、再婚を急かされた」
 朽木様が奥方を亡くされたことはなんとなく気付いていた。瀞霊廷内でも朽木家は有名だし、この花屋での行動にもぴたりと当てはまる。毎月花を贈るほど愛があるのに再婚させられるのも大変だろう。朽木家の当主ともなれば、私のような平民の価値観は通じないのかもしれない。
「よく顔を合わせる人とか、いないんですか? 前の奥様くらいに」
 私が想像していたのは、貴族達の会議で毎回会うことになる貴族の女性はいないかとか、そういうことだった。定期的に顔を合わせるのならば、前の奥様のことは胸にしまっておいて新しい恋愛に発展できる可能性もある。朽木様は恋愛関係に近い異性を何人もキープしておくような人には思えなかったので、まずは会う回数の多い女性から目をつけるべきだ。そのはずが、朽木様は驚くべき三文字を口にする。
「兄だ」
「え?」
 思わず包装の手を止め、朽木様を見る。朽木様は静かに私を見下ろしていた。
「私は月命日に必ず緋真に花を手向ける。月命日に――同じ頻度で合っているのは、兄しかいない」
 朽木様が毎月花屋を訪れるタイミングは、奥様の月命日だったのだ。奥様に一番会いに行っているのだろうから、その前に寄る花屋の店主にも同じくらい会っているということになる。奥様は故人なのだから、現状、私が一番だ。
「兄の説だと兄が一番の候補となるが、その覚悟はあるか」
 私は、どうして私の放った言葉で朽木様に追い込まれているのだろう。朽木様の視線を受けながら、もしかして今が人生の大きな分水嶺なのではないか、と考えた。