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 高校三年生も半ばを過ぎ、いよいよ受験シーズンだ。皆志望校を直接口にはしなくても、偏差値が足りないとか近くにある店に通うのが楽しみだと口にしている。東京に生まれた私達は、恵まれていることになるのだろう。東京は大学の数も多いし、どこに行くにも便利だ。地方の大学を目指す人も中にはいるけれど、大体の人は都内の大学を受ける。佐久早も、そうだと思っていた。
「いい物件ないかな」
 佐久早が昼休みにスマホを手に語っていたのを見て、私は崩れ落ちそうな衝撃を受ける。佐久早は全国優勝経験もある我が校のエースだし、大学でもバレーを続けると言っていた。都内にバレーの強豪大学は山ほどあるし、当然のように都内の大学に進学するものだと思っていた。第一、彼女である私に何も言っていない。佐久早が都外の大学に進学することもそうだけど、佐久早の重大な決断を盗み聞きする形で知ってしまったのがショックだった。律儀な佐久早は、私に場を用意して告げようとしていたに違いない。もしかしたらそれは、遠距離になるから別れたいという話だったかもしれない。私は先に知れてよかったのだろうか。いっそ、私の方から佐久早をふるべきなのだろうか。
 佐久早とは付き合っていたい。でも佐久早が地方に行くなんて考えていなかったし、遠距離恋愛をできる自信もない。抜け殻のようになっていた私に、佐久早は一番に気付いた。相変わらず私の変化には敏い。そういうところが今は憎い。
「なんかあった?」
 佐久早が私を慮るようにそっと覗き込む。私は学校を出て予備校へ行くところだった。佐久早はこの後も体育館で練習だ。佐久早の調子が悪くなりそうなことを言いたくない、と思うのは自意識過剰だろうか。でも、いずれは話し合わなくてはならない問題だ。
「佐久早、地方の大学に行くの?」
 私が尋ねると、佐久早は「は?」と黒目がちな瞳を丸くした。
「何でそうなった」
 それは違うということなのか、私にはまだ秘密にしておきたいということなのか今は判別がつかない。
「だって、一人暮らしの部屋探してた」
「ああ……」
 佐久早はそう言ったきり何も答えない。何故か気まずそうに視線をそらしてばかりだ。私はこの情報に一日踊らされていたのに、佐久早ははぐらかす気か。追及するような視線を佐久早に向けると、佐久早は観念したように頭の後ろに手をやった。
「大学は都内にする。地方には行かない」
「じゃあ何で……」
 佐久早は照れたように唇を噛んだ。その様子を見て、これはもしかしたら悪い話ではないのかもしれないと思う。むしろいい話の可能性の方が、今は大きい。
「……大学進学を機に、一人暮らししようかと思って。お前を泊めたりできるし」
 佐久早は私と別れようなど思っていなかった。佐久早の描く大学生活に、私は彼女として当たり前に存在する。もっと近い距離で触れ合うことを求められている。私まで佐久早の照れが移ったように赤くなり、「そだね……」と返すので精いっぱいだった。私達はお互いに照れたまま数十メートル歩き、佐久早は「じゃあ」と体育館に向かった。そこからどうやって予備校に行ったのか、私は覚えていない。