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 現在、佐久早は私の部屋で中学の卒業アルバムを物凄い形相で凝視していた。こうなった原因は私にある。会話の中で過去の恋愛の話になり、佐久早の前で見栄を張った私は「中学時代彼氏がいた」と答えたのだ。それがまさかこんなことになるとは思わなかった。一応私の部屋に来るのは初めてなのだけど、浮ついた雰囲気もない。私は佐久早に求められて卒業アルバムを渡した時から放置されていた。

「ねえ、そろそろよくない?」
「よくない」

 声をかけても佐久早は微動だにしない。ちょうど私のクラスのページだったので「あ、それ私」と言うが、佐久早は適当に「あっそ」と言うだけだった。普通恋人の卒業アルバムは恋人目当てに見るものではないだろうか。

「で、誰なんだよ」

 自力では見つけられなくなったのか、佐久早は顔を上げて私を見る。その顔は睨んでいるともとれる表情で、窮地に追い込まれているというのに私は可愛いと思ってしまった。私は狼狽えながら適当な写真を指す。

「こ、これ! この人と付き合ってた!」
「……は? お前担任と付き合ってたのかよ」
「違う違う! やっぱこっち!」

 私が指さしたのは中年の担任であったらしい。佐久早から嫉妬とは違う視線を受け、私は慌てて私の写真の隣にいた男子を指した。彼には悪いがスケープゴートになってもらおう。

「お前こういうのが好きだったわけ」
「まあ、当時はね?」

 佐久早は写真の彼を凝視している。関わりもないだろうし、この場限りでなんとか誤魔化せるだろう。そう思っていた時、佐久早が唐突に口を開いた。

「お前と同中の奴がいるからそいつに聞いてみる」
「わーっ! ダメダメ!」

 慌てて私が立ち上がると佐久早は「何でだよ」と眉をしかめた。

「とにかくダメなものはダメなの! 私から言うから!」
「お前の口からだとバイアスかかってるだろ」
「そんなことない!」

 佐久早は逡巡するような表情を見せた後、私に聞くことを決めたようだった。

「……こいつ、身長とか頭とか運動神経で俺に勝ってた?」

 思わず笑いそうになってしまう。周りより大人びているとはいえ、佐久早も男の子なのだ。私は笑みを堪えながら、「佐久早の方が上だよ」と答えた。それなのに佐久早はどこか不満気だ。佐久早はしばらく黙り込んだ後、俯きがちに答えた。

「別れた後なら、今の男を上げるために下げるのかよ」

 佐久早は何と面倒くさい男なのだろう。やっぱり嘘でしたと言うのもさらに面倒な結果を招く気がして、私は一思いに叫んだ。

「そんなに嫌なら意地でも私と別れるな! 一生私と付き合ってろ!」

 佐久早は呆然と私を見た後、目を丸くして言った。

「いや、結婚はするだろ」

 佐久早も冷静そうに見えてかなり浮かれているらしい。とりあえず私の元彼から気を逸らすことには成功したようで、佐久早はアルバムを閉じて私に近寄った。