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 孤爪君を好きになったと言った時、周りの友達は意外そうな顔をした。確かに孤爪君は目立つタイプではないが、ああ見えてスポーツマンだし努力家な一面もあるのだ。私は今度の恋の標的を孤爪君に定めて学校生活を送った。自分から挨拶をしたり話しかけたりはするが、中身のある内容が返ってくるのは稀である。孤爪君が私と会話という会話をした日には、しばらくその話で女友達と盛り上がっていた。孤爪君は私の好意に気付いているのかどこか居心地が悪そうな顔をしていた。大抵の人は女の子に好かれているとわかったら嬉しいものだと思うけど、孤爪君はそういったものに慣れていないのだろう。また孤爪君が可愛く思えた。孤爪君が朝練から帰ってきて制汗剤の匂いを振りまいていた時、私はたまらず友達の元に行って騒ごうとした。その手首を孤爪君が捕らえる。人生初の孤爪君との接触に浮かれる私とは違い、孤爪君は険しい表情である。

「おれと話す度に女友達に報告しに行ったりとか、おれとすれ違ってキャーキャー言うの面倒くさいから早く告白してくれない? オッケーするから」

 要するに孤爪君は私にあからさまに騒ぎ立てられているのが嫌だったのである。告白もされないままではどうしようもないから早く関係性を決めさせてほしい、というところだろう。私に好かれていることは迷惑ではなかったようで、孤爪君は私と付き合うことを示唆した。

「多分私付き合ってもキャーキャー言ってるけどいいの……?」
「いい。周りからの早く付き合え的な目がウザい」

 孤爪君はクラスメイトからの目が気になるようだった。私は普段クラスメイトに囃し立てられた雰囲気で付き合うこともあるし、協力的な周りの視線は決して嫌いではないのだけど孤爪君は違うようだ。

「じゃあ、付き合ってください」
「いいよ。付き合ったって周りに報告してね」

 そう言って孤爪君は自席に着こうとする。その背中を見て思わず笑みがこぼれた。

「孤爪君、目立つの嫌いそうなのに私と付き合ってるって広まるのはいいんだ」
「……別に今更でしょ。それに、苗字さんは付き合ってて恥ずかしいタイプじゃないし」

 てっきり毎度騒ぎ立てて鬱陶しいと思われているだろうと思っていた私にとってその言葉は大きい。私に告白させこそしたけれど、孤爪君の方も結構私のことを気に入ってくれているのではないだろうか。何も言えずに固まっていると、孤爪君が「どうしたの。早く友達に言いに行きなよ」と言うので、慌てて走り出した。