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 ツイステッドワンダーランドに来て驚いたことは多々ある。中でも、フィクションにしかないようなものが存在するという点については興味をそそられた。動く絵画であったり、ゴーストであったり。となれば恋愛小説によく出るアレも存在するのではないか、と思うのは自然なことである。

「惚れ薬……か?」

 私の言葉を聞いたクルーウェル先生は神妙な顔をした。やはりこの世界にも惚れ薬などなくて、何を馬鹿なことを言っているのだろうと思われただろうか。しかし、先生はあっけらかんとした表情で言った。

「それがどうした。作ってほしいと言うなら雑用を手伝え」
「あるんですね!?」

 私は思わず前のめりになる。この世界に存在するどころか、クルーウェル先生には簡単に作れてしまう代物らしい。先生は若干引いた様子で雑用を指示した。私がそれらを終える頃にはもう、ピンク色の液体の入った試験管が用意されていた。

「仕事はこなしたようだな。後は好きにしろ」

 そう言って先生は部屋を後にする。私は試験管に蓋をしてバッグの中に入れ、植物園へ急いだ。私が惚れ薬を試したい人間は一人しかいないのだ。

「レオナ先輩!」
「あ?」

 予想通りレオナ先輩は昼寝をしていた。邪魔されて不機嫌そうなレオナ先輩を横目に、私は惚れ薬を取り出す。

「惚れ薬です! 飲んでください!」

 あからさまに魔法薬とわかる液体を差し出した私に、レオナ先輩は呆れたようにため息をついた。

「お前、それを言ったら意味ねぇだろうが。そういうのは普通隠して飲ますんだよ」

 レオナ先輩の言葉で我に返った。相手を好きになる薬を喜んで飲む人など元からその人のことを好きな人くらいだ。元いた世界のフィクションでも、惚れ薬は飲み物か何かだと偽って飲ませることが多かった。折角クルーウェル先生に作ってもらったのに、私は何をしてしまったのだろう。

 小さくなる私から試験管をひったくり、レオナ先輩は直接口をつけて惚れ薬を飲み干した。私はその様子を呆然と見ていた。レオナ先輩は一体、何をしているのだろう。

「飲んでやったぞ。後は上手くやれよ」

 それは私に惚れている状態のレオナ先輩とうまいこと関係性を発展させろという意味だろうか。惚れ薬を自ら飲むくらいだからレオナ先輩はそうなぅてもいいと思っているのだろう。だが、それならば素面の状態でレオナ先輩自身が関係性を進めてほしい。そう言う度胸はなくて、私はレオナ先輩を自分のものにする覚悟を決めた。