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「佐久早、私のこと持ち帰らない?」

 飲み会の終盤、佐久早にそう語りかけると佐久早はあからさまに嫌そうな顔をした。

「断る」
「そう言わずにさぁ」

 既に他のメンバーは酔いが回っており、私達の会話を聞いている者はいない。いたとしても、普段と変わらない光景に見えていることだろう。佐久早が好きで、なんとかして佐久早と恋仲になりたい私となびかない佐久早。私達の関係はここにいる全員が知るところだった。とはいえ、今回は佐久早を好きであるだけではないのだ。

「今日家の鍵忘れちゃって、大家さんに頼んでも明日になりそうなんだよね」

 一人暮らしをする際、親の言いつけで私はオートロックの物件を選んだ。それが私の抜けた性格と相まって、締め出されることが多々起こるようになったのである。昼間であれば大家さんに頼めるが、夜中に起こして頼むわけにもいかない。今夜の私は野宿決定というわけだ。私の事情を聞くと、佐久早は大きくため息をついた。

「そういうことは先に言え」
「えっ!? 泊めてくれるの!?」
「今晩だけだからな」
「やったー! 佐久早お持ち帰り成功です!」

 私が大きな声で叫ぶと、みんなから歓声が上がった。「よかったな!」「今日こそセックスしてこいよ!」下世話なかけ声を佐久早は嫌がっているようだったが、私は手を振って応えてみせる。

「じゃあ行ってきまーす!」
「おい!」

 佐久早の腕を引いて、私は佐久早の家へ向かった。
 道中のことはあまり覚えていない。佐久早の前を歩いていたら、佐久早の方が私の手を掴んで位置を交代したくらいだ。佐久早の家に着くと、佐久早は明かりをつけて風呂を紹介した。まずは汚れを落とせということらしい。「酔っ払ってるからって溺れんなよ」とのことだが、溺れないように見張っていてくれるのかと聞いたら無視された。

「出たよ〜一番風呂ありがとう」
「ん」

 次いで佐久早が風呂に入り、その間に私はテレビを見て過ごしていた。人の家で勝手に寛ぐな、と佐久早に言われてしまいそうである。佐久早はすぐに出てきて、冷蔵庫から飲み物を出して飲んでいた。視界にあるベッドが存在を主張する。密かやな沈黙の中、私が口を開こうとした時、先に佐久早が言葉を発した。

「セックスならしねぇからな」

 悪態をつく私を放って佐久早はシーツを整える。

「何でよ。みんなにセックスしてこいって言われたじゃん」
「俺がいつお前とセックスするかは自分で決める」
「ふーん」

 佐久早は少なからず私とセックスしてもいいと思っていたが、周りにお膳立てされたのが嫌だったのだろう。だが酔った頭ではそう気付くこともできず、私はベッドに身を投げた。すかさず佐久早の咎めるような視線が飛んでくるが、私は佐久早が女子をソファで寝かせるような奴ではないことを知っている。佐久早がソファで寝るか一緒にベッドで寝るかは任せる、という意味で私はものの五秒で眠りについた。