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 私のアカウントへコヅケンからダイレクトメッセージが届いたのは突然のことだった。

「君、最近スパチャ送りすぎ。生活大丈夫なの」

 夢ではないかと何度も確認してから、私は慌てて画面に指を走らせた。

「大丈夫です! バイト代が入ったところなので!」

 正確にはバイト代が入る前から継続的に投げ銭をしているわけだが、コヅケンはそこまで気付かないだろう。クールなイメージのコヅケンがエゴサーチや自分のファンのアカウントを覗くとは思わなかった。余程私の投げ銭が印象に残っていたのだろうか。だとしたらお金をかけたかいがあったというものだ。

「君まだ学生でしょ。一方的に貢がせて悪いから、何か奢ってあげる」

 今度こそ私は叫び出しそうになった。これは会う約束ではないのか。人気ユーチューバーコヅケンと一ファンの私が会って話をするなど、美味い話があっていいものだろうか。私は送り相手がコヅケンの公式アカウントであることを何度も確かめてから是非行きたい旨を送った。コヅケンはコヅケンらしく場所と時間の指定だけし、あとは何事もなかったかのように通常のツイートに戻った。私は夢見心地になりながらもその日を待った。

「……早く来るだろうとは思ってたけど、いつから待ってたの」
「四十分前です!」

 私が言うと、コヅケンは「ふーん」と言って帽子を被り直した。あのコヅケンと待ち合わせをしているのだ。私は浮かれた気持ちでコヅケンについて行く。辿り着いたのは、洒落たイタリアンだった。

「好きなの食べなよ。おれから君へのお礼」
「いただきます!」

 正直目の前のコヅケンに夢中で味は覚えていないのだけど、それなりに美味しかったように思う。コヅケンに聞きたいことは山のようにあったが、食事の最中はあまり話さないタイプのようであるため衝動を抑えた。デザートも食べ終わり、私にようやく平和な時間が訪れる。さて、一体何を話そうか。私が息巻いている時、唐突にコヅケンが口を開いた。

「君、平気でおれとセックスしそうだよね」
「へ?」

 コヅケンは何を言っているのだろうか。穏やかではない言葉に私が絶句していると、コヅケンは平然と続けた。

「本当は今日持ち帰ろうと思ってたんだけど、君があまりにも世間知らずだからやめた。もっと都会慣れしてきたら抱いてあげる」

 あまりの情報量に頭がついていけない。ただ一つ、私が田舎から上京してきたことをコヅケンは見抜いていたのだと思うと恥ずかしくなった。都会慣れしたら、とコヅケンは言うが、コヅケンはそれまで待ってくれるのだろうか。

「私が垢抜けたら、絶対抱いてくれます?」
「うん。SNSとかにリークしないって約束してくれればね」
「します!」

 私が前のめりになって言うと、コヅケンは笑って了承してくれた。こうしてコヅケンは私が都会慣れしたら私を抱く約束を、私はコヅケンとの仲を秘密にする約束をした。今のところ私達の仲は至って健全であるのに秘密にするなんて悪いことをしているみたいだ。興奮する私に、コヅケンは穏やかに「楽しみだね」と言うのだった。