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 期末テストを終え、残るイベントは夏休みと席替えだけとなった。一見大したことのないように思えるが、席替えとは学生にとって重要なものである。席によって授業中の行動を教師に見られやすくなることもあるし、共学において異性との組み合わせが重要なのは言わずもがなである。出席番号の早い人からくじを引きに行く中、私は天に向けて祈っていた。

「絶対後ろの席になれますように……!」

 その様子を佐久早が鼻で笑う。

「祈るほどのことか」
「うん、だって大事だもん」

 佐久早はクラス替えをしてから今日まで隣だった。今の席は出席番号順なので、テストの際にはまた隣になることだろう。私はこの数ヶ月間で佐久早とそれなりの仲になれたと思う。こうして気軽に話してくれるのを見ると、佐久早も同じなのではないだろうか。潔癖な隣人と離れるのは寂しくもあるが、必要以上に気を遣わなくていいのだと思うと安堵する。

「佐久早はいいよね、背高いから必然的に後ろで」
「お前も一九○あればよかったな」

 佐久早は悪戯に笑ってみせる。言わずもがな高身長の佐久早は、前にいると黒板が見えないという理由で最後列に決まっているのだ。怒ってみせる私を見て、佐久早がぽつりと呟く。

「近くの席の奴って、そんなに大事か?」

 私は目を瞬いた。私が後ろの席になりたいのは教師の目を避けたいからで、誰かと近くになりたいからではないのだけど、一体どういうことだろう。数秒考えた後で、それは必然的に後ろの席になる佐久早のことだと気が付いた。

「あ、確かに、佐久早とまた近くにもなりたいよ!」

 私の様子に自分の想定が外れていたことに気が付いたのだろう。佐久早は珍しく動揺しながら手の甲を口元に当てた。

「お前、違うなら最初から言え!」
「大丈夫大丈夫、佐久早のことも好きだから!」

 私は隣の席になって初めて佐久早を見下ろせたようで気を良くしていた。私が後ろの席になりたい理由を自分と近くの席がいいからだと信じ込み、それを私に悟られた佐久早は今途轍もない羞恥に襲われていることだろう。自分でも調子に乗っていることを自覚しつつフォローと言う名のからかいをすると、佐久早が必死そうな目つきでこちらを睨んだ。

「その言葉絶対に覚えておけよ」

 私が何か言う前に佐久早の順番が来て、佐久早はくじを引きに行ってしまった。果たして、先程の言葉が意味をなす場面はこれから訪れるのだろうか。私はより一層後ろの席になれますようにと願った。