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「あの、部活は真剣にやってるんで冷やかし目当てで来ないでください。普段なら教室にいるんで」

 ぐうの音も出ないとはこういうことを言うのだろう。私は体育館の入り口で無様に立ち尽くした。隣のクラスの影山君を好きになってからというものの、私はこっそり男子バレー部を観察していたのだ。少しならば大丈夫だという考えは甘かった。宮城の田舎において、少女漫画のようにファンの女の子が見学に押しかける部活はそうない。見物人がいれば、嫌でも目立ってしまうだろう。部長などではなく影山君本人が注意してくれたのがせめてもの幸いだった。影山君は余計な気を遣わず、過大表現をせず、率直に話す。そのストレートな言葉が真っ直ぐに私の胸へと刺さった。好きな相手から迷惑宣言をされて立ち直れるほど私の精神は強くない。この恋は終わったのだと、私は諦め半分で放課後の習慣を捨てた。

 昼休み、私の教室の出入り口に影山君を見つけたのはそれから一週間が経った後だった。私は飛び上がりそうになってから慌てて目を逸らす。影山君は私以外に用があるに違いない。何を舞い上がっているのだ。しかし影山君は私を見て「いた」と言うと、臆せず教室内に入ってきた。

「あの、影山君……?」
「何で来ないんですか」

 影山君の言っている意味がわからない。私は影山君に来るなと言われて部活見学をやめたのだ。私の戸惑いを感じ取ったのか、影山君は言葉を足した。

「俺、教室にいるって言いましたよね」
「……あれそういう意味だったの?」

 部活に来るのは迷惑だから、せめて来るなら教室にしてくれという意味だと思っていた。影山君が本気で教室に来て欲しいと思っているなど予想だにしていなかったのだ。いや、今でも来て欲しいのかはわからないが、少なくとも不満げにしているのは事実だ。

「あなたは俺が好きなんですよね」

 平然と語られた事実に肩が跳ねる。声を抑えて、と頼むより前に、影山君は子供のような表情で私を見据えた。

「あんたの俺への気持ちはその程度だったのかよ」

 私は目を瞬いた。影山君は、私の気持ちが迷惑ではなかったのだろうか。もしかしたらそれ以上に、私の気持ちを必要としてくれているのだろうか。

「あの、教室行ってもいいの……?」
「いいから言ったんです」
「好きでいても、いいの?」

 私が窺うように尋ねると、影山君は顔を逸らして言った。

「あんたの唯一の長所はそこだろ」

 影山君は私が長らく片思いをしていたことを知っていたらしい。ろくな人間だとは思われていないだろうが、想いの強さだけは認められているのだ。そう考えたら嬉しくなって、私は笑った。

「何笑ってんだ」

 手を口に当てて戸惑う影山君より今は私の方がリードしているみたいだ。