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「……こんな所で何をやっているんだい」

 そう言いながらも、リドル先輩はひとつ席を空けて私の横に腰を下ろした。休日のナイトレイブンカレッジは平和で、ここが魔法士を育てる学校だということすらも忘れてしまう。気持ちが凪いでいるのはリドル先輩も同じなのか、リドル先輩は至って落ち着いた声で言った。

「キミはいつか元の世界に帰るだろう」
「そう、かもしれません」

 肯定も否定もしなかったのはまだ私がこの世界に来たしくみが解明されていないからだ。しかしリドル先輩が確信を持って言うくらいならば、私は強制的に元の世界に返されてしまうのかもしれない。

「ボクは毎日キミがいなくなるんじゃないかと怯えて暮らすのなんか嫌なんだ……でも初めから別れの決まってる付き合いなんか、したくないんだ」
「リドル先輩?」

 落ち着いていたリドル先輩の声は、今にも消えてしまいそうな蝋燭の火のように揺らいでいる。私は何故リドル先輩が私のことで感情を剥き出しにするのかわからなかった。だが、そうさせている理由は私なのだろうと、薄々勘付いていた。

「キミと付き合ったら、ボクは最後まで添い遂げたくなってしまう。ボクはキミを好きになんて、なりたくなかったんだ」

 最後は殆ど消え入るような声だった。リドル先輩は私が好きで、好きになった人間が異世界人だということで苦しめられているのだと、この時になって初めて知った。私はずっとリドル先輩を苦しめていたのだ。リドル先輩と恋愛ごっこを楽しんでいるのは私だけだった。リドル先輩はずっと真剣に、私との将来を考えていたのだ。私の気持ちを聞きすらしないところがリドル先輩らしいと思った。

「私はフラれてしまったんですね」

 リドル先輩の方を見ないまま私は答える。するとリドル先輩は不服であるかのように語気を強めて言った。

「違う。好きだと言ってるんだ」
「でも好きにはなりたくなかったって」
「それとこれは別だ! ボクはキミを好きだけど永遠がないから苦しんでいるんだ!」

 今までこれほどまでに熱烈な告白を受けたことがあっただろうか。一生一緒にいたいと言っているのと同じのその言葉は、私の胸に深く響いた。

「それじゃあ、リドル先輩の魔法で私を永遠にしてください」

 リドル先輩は何を言っているんだという目で私を見たが、私はリドル先輩に微笑んでみせた。世界をも移動させてしまう不思議な力が働くならば、リドル先輩はそれに匹敵する魔法で私をこの世界から離さないでほしい。私はリドル先輩のためなら、世界にだって抗える。