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「あ、だめ」

 などと言っても聖臣の手は止まらない。どうせ口だけの言葉だと思っているのだろう。普段は期待していることも事実だ。だが、今日だけは断らなければいけない理由があったのだった。

 聖臣の手が遂にショーツに触れる。ぎこちない手つきでブラジャーから順番を踏んでいっていたのに、真っ先にショーツに手を伸ばすようになったのはいつからだろう。とにかく聖臣は、私の一番隠したい場所を開いた。

 ショーツがずり下げられると同時に香る生臭い匂い。恐る恐る聖臣の顔を見ると、聖臣はこれでもかと言うほど眉を寄せて私の下半身を凝視していた。時が止まったかのように二人共何もできない。聖臣がショーツを元の位置に戻したのは、数秒経ってからのことだった。

「ごめんね、汚いよね」

 私は泣き出したい気持ちになった。ただでさえ異性に生理ナプキンを見られるのは嫌だというのに、相手は潔癖な聖臣だ。使用済みの生理ナプキンと経血に塗れた膣など、排泄物と同じくらい見たくないことだろう。聖臣は私を嫌っただろうか。女としての情けなさが募る。素早く服を直して聖臣から距離を取ろうとすると、聖臣が私を力強く抱き寄せた。

「相手のことを何でも受け入れるのが、愛だと思う」
「あ、愛?」

 聖臣が突然語りのモードに入ってしまった。私は後悔から抜け出せないまま聖臣を見つめる。

「いくら汚いものを隠そうとしたって、いつかは介護をしたりされたりする日が来る」

 愛の次は介護だ。今日の聖臣は一体どうしてしまったのだろうか。聖臣の変化に戸惑うと共に、聖臣が私との老後を考えているという事実に胸が踊る。大分かけ離れた話ではあるが、聖臣は私をフォローしてくれようとしているのだろう。未だに恥ずかしさは残るものの、聖臣の言葉は私を勇気づけた。

「聖臣ってそこまで私のこと好きだったんだね」
「お前な」

 こうして言葉にすれば恥じらうが、心の奥底では私との将来すら描いていると教えてくれた。先程まで聖臣との付き合いは終わったとすら思っていたのに、今の私は随分気が大きくなっていた。

「そんなに私のこと愛してるならさ、排水溝の掃除週一でいい?」
「それとこれとは別問題だ。絶対に許さない」

「何でも受け入れる」という言葉に甘えてみれば、普段の聖臣らしい言葉が返ってきた。いくら私のことを受け入れようと、排水溝のぬめりだけは受け入れられないらしい。相変わらずの潔癖に笑うも、今の私は聖臣とこの先ずっとやっていける気がするのだった。