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※相川さん主催企画「約束」提出物


「いいか、この船に乗るなら言っておきてェことが一つある」

既に衛生環境を始めとした海賊団内でのルールを一から数十まで述べた後、キャプテンは重々しくそう言った。

「はい、何でしょうキャプテン」

私は敬礼ポーズを取り、ハートの海賊団のクルーが呼んでいるようにキャプテンと言ってみる。キャプテンの中で既に私のクルー入りは許可されているのかキャプテンの顔色が変わることはなかった。しかし、他の細かなルールとは違いこれを破ったら本当に船から降ろされてしまうのだろうとすら感じさせる表情で、キャプテンは私を見下ろした。

「ウチはあくまでも海賊だ。女扱いはしねェ。それに対しての不服申し立ては聞かねェ」
「異論ありません。野郎扱いのままでいいと約束します」
「よし、乗れ」

当時はキャプテンが「最悪の世代」などと呼ばれる前だったが、思えばハートの海賊団の入団資格はかなり緩いものだと思う。そのせいか、船にはようやく船室に収まるサイズの巨体の持ち主や喋るクマまでいる。しかしキャプテンの一番の想定外は、私だったのではないだろうか。

鍵のかかった船長室にて、私はキャプテンから顔を離した。私の唇とキャプテンの唇を銀の糸が繋ぎ、やがてぷつりと切れる。私がそのままキャプテンに体を預けていると、私の背中に当てられていたキャプテンの手が下へ伸びるのが分かった。

「……女扱いはしないって言ったくせに」

散々キスやセックスをしておいて、今更何をと思われるだろうか。しかし私はキャプテンに初めて船長室に入ることを許可された日から、そこで急にキスをされた日から乗船時の約束とは何だったのだろうと思い続けている。私とてそれなりの覚悟を持って海賊になったのだ。こうして隠れて恋人関係にあるならまだしも、戦闘時ですらあからさまに庇われてしまっては立つ瀬がない。キャプテンは私の尻の方にあった手を背中に置いて私を引き寄せると、「これは女扱いじゃなくて特別扱いだ」と言った。

「……屁理屈」

私が小さく零すと、まるで子供にするように鼻をつままれる。今のは子供扱いだろうか。段々キャプテンのことが分かってきた気がする。キャプテンは私を女扱いするくせに、こうして都合の悪い時だけ私を子供扱いすることがある。

「じゃあ聞くが、お前は女扱いされることに不満があるのか」
「そりゃあ……ないですけど……」

キャプテンは最初から分かりきっていたと言わんばかりの表情で得意げに鼻を鳴らした。私だって本当は契約不履行で文句の一つでも言いたいところだ。でもキャプテンの女という肩書は結構気に入っているので何もできずにいる。こうして私はまんまと悪徳海賊の手に落ちてしまったのである。