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「付き合え」

 佐久早君にそう言われた時、私は少なからず驚いた。佐久早君と私は数度話したことがあるだけの仲であるし、今まで佐久早君から好意のようなものを感じたことはない。今だって、好きな人に告白するならもっと言葉を選ぶのではないだろうか。佐久早君の口ぶりは、まるで取引でも持ち掛けているようだ。

「何で?」

 はい・いいえではない答えを私は述べる。佐久早君はそれすら予期していたように続けた。

「若利君がお前を好きだって言ってんだよ。彼女になっても安全な奴だってことを俺と付き合って見せろ」

 やはり佐久早君は私を好きではないという予想は当たっていたのだ。それどころか、佐久早君は牛島君に尽くすために私と付き合おうとしている。きっと佐久早君は私などどうでもよくて、牛島君第一に考えた結果こうなったのだろう。佐久早君と付き合うこと自体は絶対に嫌だというわけでもないが、牛島君と付き合う前提となると話が変わってくる。佐久早君は、私とのこと全てを牛島君に報告するだろう。

「見せるってどこまで? まさかセックスまで見せないよね?」

 私が半ば笑いながら出した言葉を、佐久早君は至って真剣に肯定してみせる。

「若利君が見たいって言ったら見せる」

 私は思わず叫びそうになった。佐久早君は一体どれだけ牛島君に献身しているのだろう。口であらましを伝えるならまだしも、自分の裸も映っている場面を友達に見せるなど普通嫌なはずだ。もしくは、佐久早君は牛島君をセックスの場に呼ぶ気だろうか。私の人生初の3Pは、牛島君と、狂った牛島君マニアを相手どるものかもしれない。

「ていうか、そんなに私のことが好きなら牛島君から私に告白してくれればいいじゃん。佐久早君と付き合う必要はないと思うんだけど」
「若利君はお前のことを好きだって言ってただけだからこの話は知らない。お前が若利君と付き合っても大丈夫な奴かを俺が見るだけだ」
「牛島君に何も言わずにこんなことしてるの!?」

 私は叫ぶように言った。まず佐久早君は牛島君の気持ちをあろうことか本人に伝えている。その上で、勝手に私を見定めようというのだ。一体佐久早君は牛島君の何なのだろうか。私と付き合って安全性を確認した上で牛島君に引き渡しても、牛島君は喜ばないだろう。男子の人間関係が何もわからない。友達の好きな人と付き合うことが果たして友人のためになるのだろうか。

「俺がアウトだと判断したら若利君には諦めさせる。本当に付き合ってるつもりでやれ」
「ちょっと待って、拒否権は?」
「ない」

 当然のごとく告げられた言葉に、私は一人項垂れるのだった。