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「部活終わった」

 佐久早君にそう言われた時、私は呆然として彼を見返した。今は三年の自由登校期間で、ちょうどセンター試験を終えた頃だ。私の心はすっかり受験に向かっていたので、同じクラスでもない佐久早君が話しかけてきたことに少なからず驚いた。佐久早君が言っているのは、今日の練習が終わったという意味ではなく三年間の部活が終了したという意味なのだろう。強豪のバレー部は一月まで部活がある。だがそれが何だと言うのだろうか。私の疑問を読み取ったように、佐久早君は眉を顰めた。

「お前が好きだって言ったんだろうが」

 その言葉で漸く思い出した。私は一年の時、佐久早君に告白をしていたのだ。すっかり忘れ去ってしまったくらい、私にとっては淡い想いだった。当時にしてみても、強豪のエースをやっている佐久早君になんとなく興味が湧いたというくらいの気持ちだっただろう。一年の秋、私は隣のクラスの佐久早君を呼び出して告白した。佐久早君の答えはノーだった。佐久早君は、「今は部活に集中したいから」と言っていた。

 私の頭の中で破片が一つに繋がる。佐久早君はあれから、ずっと私に返事をするつもりだったのだ。理解したら、喜びよりも驚きの方が勝った。何せ当時から二年経っているのだ。佐久早君はその間ずっと私のことを考えていたのだろうか。というか、「部活に集中したい」というのは社交辞令ではなかったのか。私は言葉を探して目を泳がせた。佐久早君は咎めるような目で私を見下ろす。

「俺が部活やってる間に彼氏、作ってたよな」
「ええと……」

 私の中ではすっかり佐久早君との恋は終わったものになっていたのだ。わかりやすく言わない佐久早君が悪い。とは言う勇気がない。佐久早君は長いため息を吐いた後、マスクをつけ直した。

「とにかく、まずは受験を終わらせろ。俺のことはその後でいい」

 そう言う姿はとても妥協しているようには見えず、私は言葉を詰まらせた。

「お前が受験に集中してる間俺は待ってるからな」

 佐久早君から目に見えて負のオーラが発される。私は上ずった声で返事をして、佐久早君が去る姿を見ていた。二年前の私は、どうやら佐久早君を甘く見すぎていたらしい。