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「影山選手、大好きです! これからも応援し続けます」

 ファンミーティングの際、私は結局似たような言葉しか言えない。期待を込めた瞳で見上げた先には、必ず影山選手の困った顔があるのだった。

 彼の呼び方が「影山君」から「影山選手」になったのは大学二年の頃だった。高校卒業以前から彼はプロ候補として有名だったが、私のバレーに対する興味はあまりなかったのだ。一緒に上京してきた同級生、それが推しになったのは大学の友人に連れられて試合を観戦するようになってからだった。私は「影山君」の新しい一面を知ったというより、全く新しい人物として影山君を認識したのだ。

 初めこそ照れや恥じらいがあったものの、今ではすっかり常連ファンだ。影山君は初めこそむず痒そうな表情をしていたが、段々それが何かを堪えるような顔に変わっていった。同級生に応援される恥ずかしさならもう慣れてもいい頃だ。影山君は私の何が気に入らないのだろう。疑問を胸の底に押し込めたままファンミーティングに行くと、私の持ち時間が終わる頃になって影山君は私に顔を近付けた。

「あの、俺は海外行くんで俺を好きなのはやめた方がいいと思います!」

 私もスタッフも呆然としていた。一言言うならば、「知ってる」だ。影山君が移籍する情報はファンとしてリアルタイムで追っていたし、何回も試合に来るくらいなのだから影山君も私が彼の移籍を承知しているものと思っていると思っていた。影山君が好きなのも今更だ。海外に行ったとしても中継で試合を観られるし、今の時代SNSもある。一体影山君は何が言いたいのだろう。

「私はファンとして影山選手を応援するだけだから、あまり関係ありませんけど……」
 
 そう言うと影山君は衝撃を受けたような顔をした。私が影山君のファンだということの何が衝撃なのだろう。私の持ち時間をとっくに過ぎても何か言いたげにしている彼を見て、私は一つの可能性に辿り着いた。

「もしかして、私のこと気にかけてくれました?」

 私は自分で問うには些か恥ずかしい質問をする。私は影山君の同級生だから、私が影山君を本気で好いていると思っていたのだろうか。それならば移籍を前にしてもファンミーティングに通う私に困った顔をするのも頷ける。

 影山君が黙って俯くものだからなんちゃって、と場を誤魔化そうとした時、影山君が不意に顔を上げた。

「そうです、責任とってください」

 私は唖然とした。だがまず私が責任をとるべきは、影山君の勘違いでなくファンミーティングの持ち時間を超えていることに対してだろう。列から外れてスタッフに謝ろうとした時、影山君の方から走ってきたスタッフが一枚のメモを渡した。