▼ ▲ ▼
最近、佐久早につきまとわれるようになった。
つきまとわれると言うと語弊があるだろうか。私達は一年の時から同じクラスで、それなりに仲のいい友達だった。だが所詮は異性の友達だし、あまり深追いはしていなかったのだ。それがここ数日、やたらと話しかけられたり放課後には「どこ行くの」と尋ねられたりする。帰宅部の私が向かう先は自宅かせいぜい駅の近くにあるアイスクリーム店なのだが、佐久早は聞くと満足そうにして部活へ向かうのだ。購買へ行こうとしている今だって、佐久早が隣に追いついてきている。
「佐久早、購買とか学食は食べないんじゃなかったっけ」
「うん。でも見るだけ」
何故見に行くのか、とは聞けなかった。私が購買に行くからと答えられたらそれこそ何と返していいかわからないからだ。一人だけ気まずさを抱えたまま廊下を歩く。すると二つ先のクラスから佐久早の友達、古森君が出てきた。
「おっ、佐久早……と苗字さんじゃん。なんか最近よく一緒にいるけど、付き合ってんの?」
私は内心で古森君に拍手をした。今の私達は断じて付き合っていないが、何故一緒にいるのかを佐久早に聞いてくれた功績は大きい。これで私は何故つきまとわれているのかを知ることができるのだ。佐久早の言葉を待つと、佐久早は平然と言い放った。
「付き合ってない。付き合う前の期間が一番楽しいって言ってたからな」
言葉の意味を理解するのに数秒かかる。まず、私と佐久早が付き合っていないということは事実だ。私は告白をしてもされてもいない。だがその後の言葉はどうだろう。友達と付き合う前の方が楽しいという話で盛り上がっていた時近くに佐久早がいた気がするが、それは別に佐久早に向けた話ではないのだ。
「私好きだなんて一言も言ってないけど」
言ってから、佐久早が私を好きであることは当たり前だと言っているようだと気付いた。今更恥ずかしくなるが、本人は至って気にしていない様子だ。
「好きじゃねぇの」
「そりゃ……エースだっていうのとかは格好いいと思うけど」
目を逸らしながら、胸の奥が沸き立つのがわかる。もしかしたら私は今恋の駆け引きをしているのかもしれない。
「俺の身長でもバレーでも好きは好きだろ。苗字は俺が好き」
「佐久早は……?」
私は揺らぐ瞳で佐久早を見上げた。私の気持ちにばかり言及して、佐久早の気持ちは誤魔化されている気がしたのだ。目に見えてつきまとっている時点で隠す気もないのかもしれないけれど。
「ここで言ったら付き合うことになるから言わない」
それはもう、私を好きだと言っているのと同義ではないだろうか。あまりのもどかしさに私の方が付き合いたくなってきた。私は佐久早の身長やバレーでの活躍を好きだったはずなのに、私にダイレクトにアピールする佐久早より急いでいる。目の前で見せつけられた古森君は「あー、なんつーか、ごちそうさま?」と言って廊下へ消えてしまった。
/kougk/novel/6/?index=1