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 セックスをするのは週に二回まで、というのが同棲するにあたり二人で決めたルールだった。仕事や練習があるのだし、日中に支障をきたしては困る。だから金曜の夜と土曜の夜にだけまぐわいを許そう、という具合である。

 初めこそ守っていたものの、「土曜の夜は出かけていてしなかったから」「性欲が高まって」と理由をつけて侑は名前を抱くようになった。次第に回数は増えていき、翌日の朝に起きられないこともままあった。名前も止めようとするものの、侑とセックスすること自体が嫌なわけではないと見抜かれているのだろう。侑は口だけだと決めつけ、名前を無理やり抱いた。二人で連れ添ってベッドへ向かう時よりも、侑は興奮しているように見えた。

 名前も侑も大学生ではない。いい歳の社会人である。翌日の仕事に身が入らなかったら困るし、侑に至っては体が資本だ。手始めに、一週間セックスをしないことを名前は決めた。一週間セックスを我慢できたら、また元のペースに戻ることができると思うのだ。

「これが私の覚悟や」

 名前は侑の目の前で避妊具の買い置きを全て捨てた。


 夜にだけ取り出す箱がお菓子の袋に埋もれていくさまを、侑は呆然として見ていた。思い出すのは付き合いたての頃である。避妊具を自分で買うのは恥ずかしいと言っていた名前のために、侑がコンビニへ走っていた。同棲してからはストックを置くようになり、切らしたことはなかった。それが今全て破棄されている。

「俺、お前を大事にする決心ついたわ」

 侑の声を聞いて、名前は期待を込めた瞳を上げた。侑は名前の肩を掴み、全力で言う。

「結婚しよう」

 結婚はまだ先でいいと思っていた。子供を持つことにあまり積極的になれなかった。だが、名前がその気だと言うなら、名前のパートナーとして名前の意思を尊重してやりたい。

 一方名前は、鳩が豆鉄砲を食ったような表情を浮かべた。結婚の提案は、避妊具を捨てた名前にとって想定外の出来事だったのだろうか。

「い、今? 私は侑に我慢してほしいだけなんやけど」
「せやな……既婚者って公表されたわけやないから、変に近寄ってくる女は確かにおった。不安にさせてごめんな」

 名前は動揺を隠せないまま侑に抱きしめられた。侑の腕の中で名前は顔を出す。

「なぁ、なんか変な勘違いしとるような――」
「俺が全部責任取る! せやから生中出しセックス、俺もしたい!」

 今までのときめきが嘘のように名前の胸は白ける。名前は力任せに侑をどかすと、「脳みそ精子でできとんのかこのポンコツ!」と叫んで部屋を出たのだった。