▼ ▲ ▼


 部活と教室で木葉を見ていて気付いたことがある。

「実は木葉って結構根暗?」

 不意に問いかけると、木葉は一瞬間を置いてから大袈裟に答えた。

「ちげーし! 木兎といるから目立たないだけだし!」

 木葉は基本的に誰とでも人間関係を築ける、明るいタイプの人間である。だがよく観察すれば休み時間はスマートフォンを弄っていることが多いし、友達が忙しくしている時は無理して話す人を作らず一人でいることもある。木兎といるから目立たないと木葉は言うが、逆に木兎がいたからこそツッコミ役として生きていたのではないだろうか。木葉は相手取る人によっては、結構大人しい人だ。

「違うって言うんならやってみてよ」

 私の言葉を聞いて木葉は一つ咳払いをする。次の瞬間、木葉は木兎の真似をしているかのような声を出した。

「ヘイヘイそこの可愛い子!」

 私達の間に沈黙が訪れる。まさかその方向で来られるとは思わなかったし、木葉もこの先のことは想定していなかったのだろう。木葉はしばらく腕を上げたまま固まった後、「マジで今の忘れて」と悲嘆に暮れた。

「木兎はこういうタイプの明るさではないよね」

 こういう、とは出会い頭に女の子を口説くタイプという意味である。木兎は派手だが、異性に対して積極的とは言い難い。

「それはアレだから、俺バージョンだから」
「つまり木葉はチャラいんだ?」

 したり顔で覗き込んでやれば、木葉は悔しそうな顔で目を逸らした。

「ちげーし! 相手がお前だからだし!」
「つまり私が好きなんだ?」
「ああそうだよ!」

 器用な木葉らしくない乱雑な告白に思わず笑う。木葉は頭を掻いて「もう少し気まずそうにしろっつーの」と言った。だが私がそうしない理由は、とっくに返事が決まっているからである。次は何と言って木葉を振り回してやろうか。私は満面の笑みで木葉を追いかけた。