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※ほぼ研磨しか出てきません

「だめ、私もう絶対諦める」
「ふーん」

 私の泣き言を研磨は否定も肯定もせず流した。その実話の中身はしっかり聞いているようで、時折鋭い言葉をかける。先程も、黒尾さんへの気持ちはその程度だったのかと叱咤されたばかりだった。

「この時点でクロから他に乗り換えるのは勿体ないと思うよ。クロはあと少しで攻略できるとこまでいってるんだから」
「ゲームじゃないんだからさぁ……」

 とは言いつつも、冷静な研磨から望みのある言葉を言われたことは嬉しい。実際の黒尾さんは私に振り向く気配など見せず美人と飲み歩いているのだが、研磨から見ればあと少しというところらしかった。ならば、少しくらいその気を見せてくれてもいいのではないだろうか。

「叶わない片思いに疲れちゃったんだよ」

 私が机に顔を載せると、研磨は困った顔で追加の酒をオーダーした。大方私を慰めるのが面倒だから酒の力に頼ったのだろう。これ以上飲んだら我を失ってしまう気もするが、そんなことはどうでもよかった。

 元々面倒見がいいとは言えない研磨だ。飲んだくれる私を止めることはなく、すっかり酔っ払いが完成した。さらには終電に間に合わない時刻になってしまった。タクシーを手配している研磨を見ながら、私は研磨と一線を越えるのだろうかと思う。研磨はいい友人だ。恋愛的には見ていない。だが長いこと相談に乗ってもらっているし、一晩泊めてもらうなら一度寝るくらいいいのかもしれない。もしかしたらこれが黒尾さんを忘れるきっかけになるかもしれないのだ。

 研磨の家に着くと、私は千鳥足で中に入った。一軒家だけあり、部屋の数は充実している。「お客さん用の部屋はこっち」と案内されたのは、八畳ほどの畳部屋だった。研磨は体に力が入らない私の代わりに布団を用意する。私はシャワーを浴びることもせず布団に横たわった。酒で記憶は残らないだろうが、それは私にとっていいように働くのだろうか。布団で研磨を待っていると、研磨は私を一瞥した後襖に手をかけた。

「俺は自分の部屋で寝るから、お客さん用の布団で寝てね。その布団、クロが使ってるやつだから」

 途端に私は飛び上がりそうになる。研磨にセックスの機会を裏切られたというだけではない。今私が寝ている布団は、黒尾さんが使っているものなのだ。私の頭の中を支配するのは研磨から黒尾さんに変わった。これだけ性の予感が蠢く中で、研磨は簡単にその機会を捨て私を黒尾さんの元に返すのだ。研磨がいなくなった後で、私は布団に縋り付いた。

「諦められないよ……」

 ここまで全部、研磨の思い通りなのだろうか。