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「片思いしてるのに疲れた!」

 私は机の上に頭をもたれた。一つ言うならばここは昼休みの教室で、片思い相手の佐久早は目の前にいる。佐久早と同じクラスになって恋を始めてから席替えのくじ運に恵まれたものの、佐久早は一向に私に振り向いてくれる気配がないのだ。私に好かれているということをとうにしっている佐久早は、横目でじっと私を見た。

「お前の愛は条件つきなわけ」

「愛」という言葉に私は動きを止める。佐久早のことは大好きだけれども、私の気持ちが佐久早にそこまで評価されていると思わなかった。それに、佐久早は私の気持ちの中途半端さに文句をつけるような様子だ。期待を込めて佐久早を見ると、佐久早は感情の読めない声で言う。

「俺が振り向かないなら好きなのやめる、俺がお前を好きならお前も俺を好きって、無条件に俺を好きなわけじゃないんだな」

 違う、と言いそうになる。私は佐久早を好きだ。だけど夫婦がお互いを想い合うような、真の愛かと言われれば自信がなかった。所詮私達は高校生だ。佐久早は私に本気の愛を求めているのだろうか。

「俺がお前を好きじゃなくなったらお前も俺から離れていくんだろ」

 やさぐれたような声で紡がれた言葉に私は目を瞬いた。それではまるで、今も私のことが好きであるような言い方だ。

「佐久早私のこと好きだったの?」

 素直に声に出すと、佐久早は横目で私を睨んだ。

「お前の気持ち程度で揺るがないくらいにはな」

 私は自分の言動を後悔した。佐久早と私は両思いだったのだ。それを自分から捨てるような真似をしてしまった。もう少しわかりやすくいてくれてもいいのではないかと思いつつも、それが佐久早らしいと心のどこかで嚥下していた。

「嘘! ごめん佐久早戻ってきて!」

 佐久早に縋り付く私は情けないことこの上ないだろう。佐久早は冷静に私を見据え、試すような口調で言った。

「俺は愛しかいらない。お前に俺と同じだけの気持ちを持つ覚悟があるのか」
「ある! あるからぁ!」

 この時の私は佐久早と付き合うために必死だった。愛といえど、所詮高校生が持つ感情など知れているとどこかで下に見ていたのだ。だが付き合いを初めて数日が経った頃、私は佐久早の言葉の意味を思い知ることになる。佐久早聖臣とは、高校生らしくない愛の深い男だ。