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「お前俺が好きなんだろ。何で俺の格好悪いところなんか観にくるんだよ」
「だって……」

 私は続きの言葉を思いつけなかった。初めて私と会話らしい会話をする佐久早君は自嘲的で、物憂げな雰囲気をまとっている。それもそのはずだろう。ついさっき、佐久早君のチームは負けたのだ。スポーツの経験がない私は何と言えばいいのかもわからない。私が伝えたいのは、私は佐久早君を応援しているということだ。

「私は佐久早君の格好いいところも格好悪いところも受け入れたいと思ってる。多分、好きよりは上」

 佐久早君に私の気持ちが知られていることはどうでもいい。大事なのは、私の気持ちが佐久早君の想定以上であることだ。直接言葉に出さなかったのは私の臆病さゆえだった。しかし、佐久早君は臆せずそれを口にした。

「愛したところで無駄になるかもしれねぇぞ」

 高校生が言うには不釣り合いな言葉を佐久早君は平然と言ってのける。応援しても試合に負けるし愛しても振り向くとは限らない、佐久早君はそう意図しているのだろうか。もしかしたら佐久早君は私が青春を無駄にする前に忠告しようとしてくれているのかもしれない。

「それでもいいよ。関係ない。両想いになれなくたっていい」

 佐久早君がお察しの通り、私の気持ちは愛なのだ。佐久早君が振り向いてくれないならば好きでいることをやめる、などとできるほど簡単な想いではない。私としては私の気持ちの大きさを強調したつもりなのだが、佐久早君にとってそれは敗北宣言のように聞こえたらしかった。先程とは違う不機嫌そうな表情を顔に浮かべ、こちらを睨む。

「最初から諦められるとむかつく」

 私はまた言葉に迷った。もしかしたら佐久早君はスポーツと同じような意味合いで言っているのかもしれない。だが恋愛にルールなどないし、私が佐久早君をどう思うかは自由であるはずだ。佐久早君は堂々とした様子で私の目の前に立ちふさがり、宣言した。

「俺は向けられた好意を与えられっぱなしにするような奴じゃねぇ」

 私は目を瞬く。今しがた、愛を向けても同じものは返ってこないと言われたばかりだ。だがそれが好意であるなら、佐久早君は何かしらの反応を返してくれるということだろうか。どうやら私は「一方通行でいい」と言ったことで佐久早君のプライドを刺激してしまったらしかった。愛をくれる人物にはそれなりの礼儀を尽くす、それが佐久早君なのだろう。だがその結果を考えると私は思考を停止してしまうのだった。佐久早君が私の気持ちに応える方法は、振り向く以外に考えられない。どうして佐久早君は、こんなにも堂々と好きになる宣言をできるのだろう。