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 気が付くと、周囲を壁に囲まれた狭い部屋に閉じ込められていた。顔を上げれば液晶モニターに大きな文字が躍り出ている。「〜しないと出られない部屋」私がそれを見て目を丸くすると同時に、隣に足音が並んだ。

「どうやら閉じ込められたらしいな」

 それは同じ学部の佐久早だった。佐久早とは親しい、というより親しくしてもらっていると言った方が正しいだろうか。とにかく私の好意を毎度躱す佐久早は、今回も冷静だった。

「何だと思う」

 巷に聞く「出られない部屋」というシチュエーションに、私達は揃って声を出す。

「相手の嫌いなところを言わないと出られない部屋」
「セックスしないと出られない部屋」

 二つの声が重なった後に、私達は揃って渋い顔を相手に向けた。仮にも片方が好意を抱いている男女二人で恋愛的機能を持たないことはないだろう。相手の嫌いなところを言わないと出られない部屋だとして、私は永遠に出られないことになる。

「シチュエーション部屋だよ!? セックスに決まってるじゃん!」
「それはお前がセックスしたいだけだろうが」

 私の意見はあえなく論破されてしまった。実際にその通りである私は力なく項垂れる。佐久早は「それに」と続けた。

「お前との初めてのセックスはこんな薄気味悪い部屋じゃなくて俺の部屋でって決めてある」
「さ、佐久早〜!」

 いつも私のことをどうとも思っていない風を装って、佐久早は私のことをきちんと考えていたのだ。出られない部屋という非日常が佐久早を素直にしたのだろうか。

「私も好き!」

 佐久早が想定しているのが体だけの関係だろうといい。私が佐久早に笑顔を見せると、佐久早は「フン」と鼻を鳴らした。その瞬間、目の前にある扉が開いた。

「あれ、何だったんだろうね」
「知るか。出れたんだから俺の部屋行くぞ」
「展開早!」

 私は佐久早に腕を絡めることに夢中で、外壁の隅に書かれた「愛を確かめ合わないと出られない部屋」という表記を見逃していた。だが、部屋の名前を知る必要もないだろう。私達は出られない部屋ではなく佐久早の部屋で、素直になることができたのだから。