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「付き合おう」

 牛島君にそう言われた時、私は呆気に取られて口を開けた。目の前の牛島君は告白をしたというより学校の手続きを一つ終えたような表情で私を見ている。私の口から真っ先に出てきたのは、「何で」だった。

「交際は男から持ちかけるべきだと思っているからだ」
「私が牛島君を好きなように見えた?」
「ああ。違うのか?」

 何の捻りもなく問われ、私は言葉をなくす。牛島君の言う通り、私は牛島君が好きだ。牛島君が恋愛に疎いことを考慮しても、本人に伝わらないよう注意しながら応援してきた。だが、仲間の誰か――恐らくは察しのいい天童――が私に好かれている可能性を示唆したのだろう。いくら牛島君が生真面目なバレー馬鹿だといえど、一度言われてしまえば私の態度は牛島君を好きだと告げているに相応しいものだったはずだ。認めることも悔しくて、私は強がりを返す。

「別に好きじゃないし! ていうか私が牛島君を好きだとして付き合ってもいいと思ってるわけ?」

 牛島君に一番聞きたいことはそれだった。牛島君は私を好いているのか。機械的に告白の言葉を告げる牛島君はとても恋愛のやりとりをしているようには見えなかった。だから私は告白されて一番に「何で」という言葉が出てきたのだ。こういった場面では愛の告白が期待されていることも知らず、牛島君は冷静に事実のみを告げた。

「ああ。好きではないがな」
「何それ! 好きになってよ!」

 思わずプライドも忘れて叫んでしまう。付き合ってもいいのに好きではないというのはどういう心境だろうか。少なくとも私は、一年生の可愛い女の子に告白されて振っていた牛島君を知っている。

「お前のことは好きではない。だがお前の気持ちには応えてやりたいと思っている」

 段々牛島君の感情が掴めてくる。この友情だか同情だかわからない気持ちは、牛島君の好意から来ているのだ。それが恋愛の意味ではないとしても、他の女の子とは違う特別である意味はあるに決まっている。この牛島若利をどう自分のものにするべきか、私は密かに作戦を立てた。