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 オリンピックが終わり、全日本バレー選手は一段と有名になった。今はスポーツ特番を見ているところだ。テレビに映っている張本人の聖臣は居心地が悪そうにしているが、構わず私は録画を再生する。

「佐久早選手はルックスも優れていて、高校時代なんかはかなりモテたんじゃないですか?」
「いえ、そんなに」

 軽い調子でスポーツとは関係のないことを尋ねる司会者に対し、聖臣は冷静だった。仮にバレーのことを聞かれたとしても聖臣は言葉少なに答えるだろう。だが、テレビの建前だとしても、この返答には違和感があった。

「あんなに人気だったのに?」

 私が不満を漏らしたのも仕方ない。高校時代から聖臣は一九○センチ近くあり、さらには強豪のバレー部のエースまでしていて、男子からも一目置かれる存在だったのだ。言わずもがな女子からは大人気であり、先輩後輩を問わず体育館裏に呼び出されていた。今はこうして落ち着けているものの、私が当時どれほど肝を冷やしたことだろう。聖臣はキッチンで麦茶を注ぎながら答えた。

「お前一人が年中騒ぎ立ててるせいで他の女まで目が届かなかったんだよ」
「それ私に夢中だったってことでいい?」

 期待を込めた目で聖臣を見上げると、聖臣は面倒くさそうな顔をした後グラス片手にリビングへ来た。

「違う。俺がお前を好きになったのは高校卒業してからだ。間違えるな」

 聖臣に出会った時から聖臣へのアタックを続けてきた私だが、聖臣が振り向いてくれたのは大学に進学してからだった。それから付き合いを重ね、同棲している今に至る。

「じゃあ今は私しか見えないんだ?」

 からかうように尋ねると、聖臣は冷静にテレビを見据えながら麦茶を飲んだ。

「別に他の女のことも見えてるけど無視してるだけ」

 否定でも肯定でもないが、どちらかと言えば後者なのだろう。聖臣は素直な言葉こそ言わないものの、案外好きだと仄めかすことが多い。グラスをテーブルに置き、聖臣は私に体を寄せた。

「お前に夢中だった、じゃなくて今夢中、だ。訂正しろ」

 左半身に聖臣の重みを感じながら、私は停止されたテレビ画面を見た。冷静で素朴な聖臣が甘えたがりだと知っているのはきっと私だけだ。私も聖臣にもたれかかると、聖臣が私の腰に手を回した。