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「お前俺のこと好きやろ」

 唐突に投げかけられた言葉に私は肩を跳ねさせた。恐る恐る振り返ると、聡明な顔をした北が真っ直ぐに私を射抜いている。その様子は恋愛の駆け引きをしているというより取引でも持ちかけているようだった。

「いくら正論でも言っていいことと悪いことがあるんやない……?」

 北の言葉に私はあえなく降伏した。私が北を好きであることは事実だし、誤魔化すにも北を出し抜けないと思ったのだ。北は物事の本質を突くことに長けており、場の雰囲気を壊してでも人を正すことがある。今回もその一つなのだろう。だが普通、自分への好意を悟ったら知らないふりをしておくものではなかろうか。相変わらず北に雰囲気という概念はないようだ。これでは脈がないのかもしれない。

「別に好きなんは自由や。でもそのせいで周りの人間関係までギクシャクさせるんはやめろ」
「気をつけます……」

 周りの友達に私の恋への協力を依頼して北の周りを嗅ぎ回っていた私には十分心当たりがあった。北は不快に思っていたのだ。誰だって、探られたら嫌に決まっている。北の半分の度胸もない自分が嫌になった。私が北の隣に立とうなど、そもそも非現実的な話だったのだ。

 肩を落とす私を見て、北は相変わらず読めない瞳で続けた。

「俺的には今の、告白してくれって意味やったんやけど」
「へ?」

 私の口から情けない声が出る。北は少し表情を緩めた。

「そのためにチャンス作ってやったんやん。付き合ったら周りの人間関係も解決するし」

「付き合ったら」という言葉が私の耳に残る。先程北は、告白してくれと言った。

「告白したら、オーケーしてくれるん?」

 期待を込めて見上げると、北は途端に揶揄うような表情になった。

「それはどやろなぁ。挑戦してくれんとわからんなぁ」

 私は今北に試されているのだと思った。北が私に振り向く気があるのかどうかはわからない。だが、北は挑戦しないまま結果を待つような人間を是とはしないのだ。北の隣に並ぶような人間は同じくらい真摯な人でなければいけないのかもしれない。私が覚悟を決めると、北は私の心を読んだように真剣な表情になった。