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 クラスメイトの木兎が名前に対して好意をあからさまにするのはいつもの話だった。席替えで近くの席になってからというものの、名前の何が気に入ったのか木兎はアピールをやめない。やめてと言う勇気もなく、名前はそれを享受し続けてきた。名前が言おうか迷っている頃にはもう、クラス中が木兎の気持ちを知っていたのである。だから名前に恥ずかしいという感情は殆どなかった。適当に受け流していればいつか飽きる日が来るのではないかと、思っていたのだ。

「俺ちょーポジティブだからさぁ! 何も言ってくれねぇと好きだと思っちゃう!」

 数ヶ月経った頃、突然木兎はそんなことを言い始めた。常に一方的に好意を示すだけだった木兎が名前の反応を欲しがったのは初めてだった。名前は動揺したが、木兎は名前を恨みがましく睨むと部活へ行ってしまう。木兎の気分だったのだと思うことにして、その後も木兎の気持ちを受け流す日々が続いた。

 その中で、木兎のチームメイトだという集団が来たのは必然だったのかもしれない。彼らは木兎を後援するように立つと、つらつらと説明を始めた。

「木兎さんはメンタルがかなりプレーに出るので、木兎さんがフラれても支障のない日を選びました。さあ、木兎さんが勘違いする前にフってください」

 突然教室に現れた高身長の集団に、クラスメイトは何だとざわつき始めていた。名前はと言えば混乱するばかりである。ついこの間まで木兎のアプローチを受けていたのに、今日はフれと言われている。大体、木兎のチームメイトは木兎のことばかり考えて名前の気持ちを考えていなさすぎるのではなかろうか。

「あの」

 名前が声をかけると、チームメイトに左右を囲まれた木兎が悲しそうに俯いた。

「木兎をフりたくないです」
「そんなことを言わず。大会前にフラれたら困るのはこちらなので」

 赤葦と呼ばれている後輩は頑なだ。木兎は今にも泣き出しそうな顔をしている。ここにいる全員、名前の気持ちなど知らないのだろう。

「木兎を好きな場合は、どうすればいいですか?」

 名前が言うと、一瞬の静寂の後教室が沸き返った。話の中心の木兎だけが、何が起きたのかわからなさそうに辺りを見回していた。何も言わないことは脈なしではない。木兎に釣り合わないからこそ反応できないこともあるのだと、木兎に教え込まなくてはいけない。