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「やる」

 そう言って佐久早が私に差し出したのは、菓子の中に一定の確率で入っている星形のものだった。栄養管理に気を遣っている佐久早が学校に菓子を持ち込んだ経緯はこの際気にしないとして、これは大事件である。いくら佐久早が高校生らしからぬ男だとしても、パッケージの中に入っている当たりをわざわざ私にやる理由がない。私は菓子を受け取りもせず目を輝かせた。

「佐久早私のこと好きなの!?」

 言葉通りのことが聞きたいわけではなかった。ただ驚きを示す言葉として、衝動のままに口にしたのである。しかし佐久早は平然とした様子で「そう」と言った。忽ち私は口を尖らせる。

「告白を適当に済ますな! 私は佐久早から告られるのは学園祭か修学旅行って決めてるんだから!」
「お前が決めてどうすんだよ」

 何の躊躇いもなく好きだと言ったり、告白の計画を伝えたりする時点で私達の間に緊張はなかった。私達は互いに好きだと薄っすら気付いていたのだ。ただ関係性を前に進めるのが面倒だから声に出さないだけで、それは何も特別ではない休み時間に変わってしまうものなのかもしれない。それにしたって、佐久早はもう少しムードを考えてほしいものだ。なおも抗議の眼差しを向ける私に、佐久早は面倒くさそうに言った。

「大事なのは過程じゃなくて結果だろ」
「全国優勝が言うと説得力ある……」

 佐久早は残りの菓子を食べきったようで袋を四つに折りたたむ。こうしてゴミも丁寧に捨てるところが、好きだと思う。

「俺らはもう付き合ったからいいんだよ」

 先程の「結果」を述べる佐久早に、私は甲高い声で噛みついた。

「返事してないし!」
「どうせ俺のことは好きだろ」

 一拍も置かずに返されて、私は言葉に詰まる。それは私にとって最強のカードだ。わかっていて使っているのだろうから佐久早もたちが悪い。

「心配しなくても学園祭と修学旅行では好きだって言ってやるよ」
「そういうことじゃなくてぇ……」

 私が求めているのは真剣な告白であって、カップルがじゃれ合う告白ではない。しかし佐久早と付き合えるならどうでもよくて、私は曖昧な声を出した。