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 昼休みの喧騒を背後に、私は侑へ弁当を分けてやっていた。侑の小遣いがなくなったというので作ってきてやったのである。侑に弁当を手作りする私も、恥ずかしげもなく教室で食べる侑も好意があるのだろう。あと私達に必要なのはタイミングだけである気がした。

「なあ、私達付き合わん?」

 試しに話を持ちかけると、侑はウィンナーを咀嚼してから口を開く。

「ええけどお前から告白せえよ」
「何で」
「そらそうやろ。お前ごときと付き合うのに何で俺から告白せなあかんねん」

 おにぎりを頬張りながらふてぶてしく言った侑に、私は思わず「好きな人に何てこと言うんや!」と嘆いた。

「俺かてお前のこと好きになりとうないわ! あ、今のなしなやっぱお前から告れ」

 緩んでいた顔が真顔に戻る。侑は余程私に好きだと言いたくないようだ。先程の発言から、侑が私を下に見ているということがひしひしと伝わってくる。侑を好きであるくせに、私の天邪鬼な心が僅かに疼いた。

「じゃあええ。角名に告るわ」

 侑が箸を持った手を止める。角名の名前は、侑にかなりの効果があるようだった。

「やめろ! そこは普通双子のサムやろ! 何で角名に行くねん! 角名はやめとけ!」

 恐らく、治は双子として何とも思っていないが角名は同じ男として危機感を――もしかしたら私を奪われてしまうという懸念を感じているのだろう。途端に態度を変えた侑を私は頬杖をついて見上げた。

「じゃあ何て言うん?」

 まるで叱られた幼稚園児のように、侑は眉を下げて情けない声を出す。

「俺を好きて言うてください」

 私は思わず笑い出した。ここに来てまで頑なに好きと言わない姿勢が可笑しかったのだ。侑らしいと言えばらしいが、どうせお願いするなら「好きです、付き合ってください」と言うべきではなかろうか。

 とはいえそういう侑を可愛いと思っているのは事実で、私は呆気なく降伏した。

「好きやで」
「ほな付き合ったるわ!」

 次の瞬間に威勢を取り戻した侑の頬を引っ張って遊ぶ。厄介な恋人を持ってしまったものだ。