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 部活に入らない代わりに始めたコンビニバイトももう一年が経つ。仕事も覚え、後輩に指導ができるまでに成長した。余裕が出てくるとつい怠けてしまうものが人間というものである。客の少ない時間帯であることも相まり、私はレジ前でぼうっと突っ立っていた。今は在庫の補充や清掃をする必要もない。退勤時間まではあと十五分だ。時計を確認した時、入店音が鳴り響いた。

「いらっしゃいませー」

 反射で舌から音を滑らせ、私は意識を仕事に戻す。入ってきた客は見えなかったが、生活用品コーナーへ行ったのだろう。雑誌や薬類を買う客は比較的買い物が少ないので有難い。足音に顔を上げると、そこにいたのは彼氏の治だった。

「これ、お願いします」

 私は絶句する。今まで治が私のバイト先に来たことはなかった。勿論部活もあるが、一番は私にも公私があると思ってのことだろう。その治が来た上に、差し出しているのは避妊具の箱二つだった。誰と使うかはわかりきっている。私だ。私は自分の体の中に入るであろうそれのバーコードを丁寧に読み取った。

「合計一五○○円になります」

 治は過不足ない金額を現金で払う。私が袋に詰めようとすると、「袋いりません」と声がかかった。

 私は恐る恐る治を見上げる。普通、避妊具を買った客には不透明な袋を用意するものだ。中には紙袋を望む客もいる。それが袋なしとは、相当肝が据わっているかすぐに使うかのどちらかだ。私は退勤時間まであと十五分であることを思い出した。治はジャージのポケットに避妊具を滑り込ませた。

「現在から揚げがキャンペーン中ですが、いかがでしょうか?」

 呆気にとられていた私は決まり文句を思い出す。レジの近くの客にはおすすめを伝えることになっていたのだ。食いしん坊の治が食べ物を買わないなど珍しい。今なら値下げもしているし、後で二人で食べられるだろう。もはや私はバイトを終えた後に治と会うことを受け入れていた。

「いりません。食べるもんは買うたんで」
「あ、はい……」

 これは間違いなく、私と一戦交える気だ。箱数を考えれば一戦どころか数戦もする気かもしれない。私は今になってバイトだからと治に構ってやらなかったことを後悔した。店を出た治は、真っ直ぐに店員用出入り口へと向かった。