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「男女の友情って成立すると思う?」

 昼休みの真っ只中、紙パックを握りしめた侑は心底呆れたという顔で名前を見た。空になったパックを音を立てて潰す。

「するわけないやん」

 男女の友情については意見が分かれるところだが、侑は完全に信じきっているようだった。それには侑がモテるということが関係しているのだろうか。しかしその割には、侑の周りには常に男女の取り巻きがいる気がする。

「侑友達たくさんいるやんか」
「あいつらは全員セフレや。友達やない」

 空きパックを手で弄ぶ侑を名前は暫く放心して見た。セックスフレンド、とはなかなか高校生が使う言葉ではないが、侑ほどになるとそういった関係もあるのかもしれない。侑の女関係はセックスフレンドか他人かで、友達はいないのだ。

「ってことは私も友達やないんや……」

 名前があからさまに落ち込むと、侑は取り繕うように言葉を並べた。

「お前は特別や」
「私は侑の友達でいられるってこと!?」

 名前の勢いに侑は目を見開く。名前は侑と友達でいられることが嬉しくて仕方ないといった様子だ。これには別の主張がしたかった侑も頷くしかない。

「お、おう」
「やったー!」

 喜ぶ名前を見て侑は嬉しいような悲しいような気持ちに陥っていた。会話が終わるとすぐに名前は友達に呼ばれてしまい、侑の元を去る。空いた席に、一部始終を見ていたらしい角名が座った。

「素直になればいいのに」
「なったやんか! あいつが勘違いしたんやもん!」

 侑は子供のように机に突っ伏した。侑は、結構な勇気を出してお前は特別だと言ったのだ。それはセックスフレンドでも他人でもなく、好きな人であるという意味だった。それを名前は友達であると勘違いしたのだ。後から訂正したくとも、友達であることにあそこまで喜ばれては言葉にしづらい。

「どんまい」

 角名の声が頭上から降る。侑は情けない表情で顔を上げた。