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 試合会場の外へ出ると、一際目立つ色のユニフォームを着た選手が風に当たっていた。彼は私を認め、静かな瞳をこちらに向ける。

「お前古森が好きなんだろ」

 彼――佐久早は、否定する隙すら与えずに続けた。

「残念だったな。古森は俺のせいで負けて泣いてるよ」

 その口調はどこか自嘲めいていた。彼、佐久早が所属する井闥山学院はつい先程の試合で負けた。一度は優勝もした彼らが再び頂点を目指しているのは明らかだった。佐久早の言う通り、チームメイトはロッカールームで悲しみに浸っていることだろう。エースである佐久早は負けた責任を一人背負おうとしているらしかった。

 私の中で小さな怒りが沸き起こる。それは佐久早に好きな人を勝手に決められた反感や、佐久早の背負いこむ態度に対しての苛つきだった。佐久早は私のことを全て見通したつもりで、自分を責めろと言わんばかりに立っている。エースだからと言って自惚れるのも大概にしろ、と言いたくなった。

「私の好きな奴は今目の前で平気そうな面してんだよ!」

 私が叫ぶと、佐久早が意表を突かれたように目を丸くした。この際佐久早に私の気持ちがバレるということはどうでもいい。佐久早に自分の気持ちを決められたままでいることが、私は嫌だ。

「全部自分のせいだなんて思わないでよ……」

 私が消え入るような声で言うと、「悪い」と声がした。穏やかな風が二人の間を吹き抜ける。佐久早が召集されるまでの間、私達はどれくらいこうしていられるのだろうと思った。