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※キメツ学園世界線
※転生


私は転生した人間だ。こんなことを言うと異常者だと思われてしまうかもしれないが、実際私には前世の記憶が鮮明にあるし同じ時代から転生してきた人を何人も知っている。初めてキメツ学園に赴任してきた時は驚きのあまり言葉を失ったものだ。周りの知人達はまるで見慣れた反応であるかのように微笑んでいた。音柱である宇髄さんや水柱である冨岡さんなど、前世でお世話になった人達とは挨拶を済ませた。そこで、転生してきた者全員が前世の記憶を持っているわけではないことを知った。風柱、不死川さんも。

不死川さんは自分が転生した人間だということは知っているが、前世の記憶は覚束ないという風だった。実際に少し話してみて、また他の人達との会話を見ていてそう思う。私を見てもまだ思い出せないのかと言うほど私達は深い仲ではなかったし、かといって忘れられたままで満足できるほどの仲ではなかった。

簡単に言えば、私が不死川さんに片思いをしてまとわりついていたのである。不死川さんは時折鬱陶しそうにしながらも私の好きにさせてくれた。一緒にご飯を食べることも、稽古をすることもあって、たとえ恋愛感情はなくても何かしら私に情のようなものはあったのではないかと思う。前世では不死川さんと恋仲になることは叶わなかったが、記憶のない今世では望みがあるのではないだろうか。今世でも不死川さんは相変わらずの性格だが、そんな責任感のある不死川さんだからこそ突破口があるかもしれない。職員室に私と不死川さんの二人になった時、私は不死川さんの方を見て口を開いた。

「不死川さん、私前世で不死川さんのことが好きだったんですよ」

嘘はついていない。だが、受け取りようによっては不死川さんと私が付き合っていたとも受け取れる。真面目な不死川さんならば、今世でも私と付き合って責任を取ろうとしてくれるかもしれない。

「で、今はどうなんだよ」

書類から顔を上げないまま発された思ってもみない言葉に私は口を開けたまま止まった。今はどうかと言われれば、勿論不死川さんのことが好きだ。だがそれが不死川さんに何の関係があるというのだろう。

「どうせ前世はまともに育てられてねェ俺にお前を幸せにする資格はないとか言って遠ざけてたんだろォ。小せェ頃の記憶は薄らあんだよ。もしかしたら俺もお前を好きで、お前に悪いことしたかもしれねェ」

確かに不死川さんは私のことを遠ざけていたが、そんな理由があったとは知らなかった。不死川さんは私に遠慮するような気持ちで、私のことを相手にしなかったのだ。前世の真実を知ると同時に、その罪悪感で不死川さんが付き合ってくれるかもしれないという期待に胸の内が沸いた。

「だから、付き合ってくれるんですか?」
「いや、今の俺もお前が好きだから、前世でも好きだったかもしれねェと思っただけだ」

今度こそ私の動きが止まった。前世にかこつけて不死川さんを手中に落とすはずが、気付けば私が落とされている。家族のしがらみのない不死川さんとは、こうも恋愛に強気なのだろうか。

「付き合うのか付き合わないのか、お前が決めろォ」

そう言う不死川さんに、私はすぐに口を開いた。