▼ ▲ ▼

 ここ最近、私は侑を避けていた。「避けていた」という表現が出るということは、以前は少なからず親しかったということだ。私は男子の中で一番侑に気を許していたし、何なら恋愛感情すら抱いていた。侑の方も私を気にかけていたのは同じのようで、私が通りすがった時「待てや」と手首を掴んだ。

「何で避けるん? そういう察しろみたいな態度苦手やねんけど。直接言えや」

 侑の態度は普段より真剣であるように思えた。それだけ誠実に私に向き合っているということは嬉しいのに、明るい色のない侑の表情が怖いと思ってしまう。

「ミスコン出てた可愛い子、ヤり捨てしたって聞いて」

 私は途切れ途切れに言葉を紡いだ。私達は友達であるはずなのに、ヤり捨てした前科があるから付き合いを改めるなど好きだと言っているようなものだ。しかし侑はそこには触れない様子で、「あ〜」と頭の裏を掻いた。

「なんや、そんなことか。好きやから照れてるだけやと思ったわ」
「そんなことて!」

 もはや侑にとって私に好かれているという事実は取るに足らないことらしい。私が抗議しようとしたのを遮って、侑は面倒くさそうに話し出した。

「あれはヤリ捨てちゃうわ。俺は本気で付き合ってもよかったけど向こうが何故か逃げたんや」
「それよっぽど酷かったってことやん! 怖いわやっぱ近付かんといて!」

 侑にそういった事実がないことに安堵しつつも、今度は別の不安が来る。さらりと述べられた「本気で付き合ってもいい」という言葉も私の胸に刺さった。

「は!? お前一回試してみ! 俺はマジで丁寧やから!」
「今度こそヤり捨てされるぅ!」

 廊下で騒ぐ私達をクラスメイトが呆れたように見ていた。友達曰く、付き合っていない段階でそういった話をできるのは十分脈アリの証拠らしい。現に侑は少しも動揺していない。これは少なからず、私と恋愛関係に陥ることを想定しているからなのだろう。だがまだこの関係に甘えていたくて、私は廊下で甘ったれた鬼ごっこをした。