▼ ▲ ▼

 ソーシャルゲームもいいが、据え置きのテレビゲームもいい。私は新しいゲーム機を買い、発売されたばかりのRPGに傾倒していた。これまでにない世界観にすっかり引き込まれていたのだ。とはいえ、私の現在地はマップの上ですらない。主人公のアバターを作成する段階に、もう一時間近く費やしていた。リビングのテレビを占拠して試行錯誤する私を見かねたように幸郎が隣に並ぶ。

「そんなのより子供作った方が楽しいよ」

 私は目線だけを幸郎にやった。構われずに拗ねているというよりは、本気で子供を作った方がいいと信じているようだった。重大なことを軽々しく言ってしまうのがいかにも幸郎らしいと思う。何も言わない私をいいことに、幸郎は子作り論を並べる。

「色が白くて可愛い名前と手足が長くて運動も勉強もできる俺、組み合わせたら最強じゃない?」

 その口調は愛を確かめているよりも、物質同士を掛け合わせて化学変化を楽しんでいるようだった。私は辟易しながら口を開く。

「幸郎は子供同士で戦わせそう。カブトムシみたいに」

 幸郎が田舎の子供らしくカブトムシで対戦しているところは想像つかないが、子供を戦いの場に送り出すことは容易に想像できる。治安が悪いから学校は私立に入れようよ、なんて幸郎が言いそうなことだ。

「まさか。俺が戦わせなくても俺達の子供なら勝手に勝つよ。だって名前はこのマンションの人妻の中で一番綺麗だもん」

 私はむず痒いような気持ちになる。素直に褒められて嬉しいと思えないのは幸郎が他の女を見下しているように思えるからだろう。その内の複数が、幸郎に好意を抱いていることも知った上で。

「私も意識してないのに人を勝手にマウントの場に出さないでくれる?」

 私は拗ねた声を出してアバターを決定した。外見は、私から最も遠いものにした。図らずとも幸郎に近くなってしまったのは何かの縁だろうか。私は唇を尖らせた。