▼ ▲ ▼

 バス停にて、中学の後輩だった影山君と鉢合わせた。黙っているのも気まずく、私は適当に話を振る。影山君の方は気まずさなど微塵も感じていない様子で、何故私は必死に話を広げるのだと言わんばかりに「はぁ」と返事をしていた。バスが来るまであと五分というところだろうか。唐突に、影山君が口を開いた。

「好きな人できたかもしれません」
「……は?」

 影山君に恋愛の話をするほど信頼されているのは嬉しい。しかし今はそういった話の流れではなかったのだ。私は去年私の担当だった体育教師の話をしていて、そこには色気の欠片もなかった。

「今? 何で私に言うの? そういう話の流れだった?」

 思わず問い詰めると、影山君は迷いのない瞳で見つめ返す。

「いや、今好きだと思ったので」

 悪い可能性――と言っては影山君に失礼かもしれないが少なからず面倒くさい未来――が頭を過ぎる。

「思い出したとかじゃなくて?」
「はい」

 影山君には少しの照れも恥じらいもない。何故か私が照れに襲われて、「それもう告白してるんだけど!」と叫んだ。もう到着の時間だというのにバスは見えなかった。

「私も影山君くらいの図太さがあれば生きやすかったのに」

 影山君くらい鈍感でいれば、陰口にも気付かないし言いたいことを躊躇うこともない。それが影山君の自信によるものだとわかってはいるものの、憧れずにはいられない。曇天の空を見上げると、隣からちっとも不安ではなさそうな声が響いた。

「俺フラれてるんですか?」

 私は恨みがましい目で影山君を見る。フラれていると思うのならば、少しくらい焦ればいいのに。私は視線を前に戻すと、自分を納得させるように叫んだ。

「仕方ないから付き合ってあげる!」

 隣の影山君は至って冷静で、大声を出している自分が馬鹿らしいくらいだった。