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 侑を好きでいた。自分の気持ちには何の疑いもなかった。ただ相手である侑が、常に思わせぶりな態度をしておいて誰のものにもならないというだけで。侑は一生誰かを隣に置くことはないのかもしれない。そう考えたら、侑を好きでいることが酷く馬鹿らしく思えた。

 私は新しく追加された連絡先を見た。一度は告白を断っても、せめて連絡先だけはと登録してくれた彼。試しにメッセージを送ってみるのも、悪くない気がした。

「逃げんのか」

 彼とのチャットルームを開こうとした時、唐突に背後から声がした。振り返ると、険しい表情の侑が私を見つめていた。

「そうやって楽な場所に行ってちやほやされてたら気持ちええやろな。傷口でもアソコでも舐め合ったらええねん」

 彼と私を馬鹿にされたということはわかった。侑は所詮私達のことを見下しているのだ。だが私は、侑が相手にしてくれないからこうしているのではないか。

「何で侑がそんなこと言うんや。私に振り向いてもくれなかったくせに」

 プライドも何も関係ない。語気を荒げて言うと、侑はらしからぬ冷静さで返した。

「自分を好きな女を俺の所有物だと思って何が悪いん? 現にお前は俺のことしか考えられないやろ」
「これから変わるかもしれないやんか!」

 侑に貶されているのに、自分の女と言われたことをまだ嬉しいと思ってしまう。そんな自分を塗り替えたくて私は思考を遮るような大声を出した。侑は初めて顔色を変え、試すような目で私を見る。

「じゃあ俺があいつと付き合うなって言うてもまだあいつと付き合う?」

 沈黙のまま二秒、三秒が経った。結局私は答えられないのだ。いくら意地を張ろうが、侑には逆らえないに決まっている。今まさに自分の女だと言われたばかりでもあるのだ。

 侑は私の内心を見透かしたように、薄気味悪く笑う。

「ほなこれからもよろしくな」

 これは呪いだとわかっていながらも、私はそれを受けずにはいられなかった。