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 始まりは佐久早と知り合ったことだった。飲み屋のトイレですれ違った私のことを大層気に入ったらしく、じっと眺めてくるので連絡先を渡した。彼はそのようなことを狙っていたわけではないと言い訳したが、誘えばすぐに手を出した。体格も肩書きも申し分ない佐久早は最高のセックスフレンドだった。何かと礼儀正しい彼はホテルへ行く前に食事や酒を楽しむ行程を入れた。そして出会ってしまったのが、佐久早のチームメイト・宮侑である。

「あれー? 臣くんええことしとるやん!」

 いくら人との距離が近い宮侑といえど、チームメイトの女関係にまで立ち入る気はなかったのだろう。宮侑は少し会話をしたら自分の席に戻るそぶりを見せた。だがその少しの会話で知ってしまった。私と佐久早が、正式な恋人ではなくセックスフレンドだということを。

「ほな俺も混ぜて?」

 宮侑がそう言ったのは自分で女を見繕うのが面倒くさくなったからなのだろう。あるいは宮侑が選ぶ女は皆マウントを取るために写真を流出させるような女だからかもしれない。佐久早の選んだ女なら安心だと踏んでいるのだろう。恋人ならば致し方ないが、セックスフレンドなら共有できる。佐久早を見ると、意外にも彼は「勝手にしろ」と言った。恐らく佐久早は私とセックスができればそこに宮侑がいようがいまいが関係ないのだろう。

 ホテルの部屋に入ると、私は彼らを「聖臣」「侑」と呼ぶ。ベッドに上がって準備ができた時、侑が上着を脱ぎながら言った。

「ヤる前に聞いときたいんやけど、どんくらいオナる?」

 いかにも侑らしい下品な質問だ。私が答えるより先に、聖臣が素早く返した。

「は? 馬鹿かお前。名前ちゃんがオナるわけないだろ」
「臣くん夢見すぎちゃう? 女は結構してるで」

 こだわりが強く、私に理想を押し付ける聖臣と女の汚い部分を見過ぎだ侑。両者は一歩も譲らなかった。

「女だからじゃない。名前ちゃんだから言ってる」
「なら聞いてみよか。してるん? してないん?」

 突然話を振られ、返答に困る。「え、っと……」言葉を詰まらせていると証拠を得たとばかりに侑が聖臣を振り返った。

「ほれ見たことか。してない女なんていないねん」

 聖臣は反感を抱いたように顔をしかめた。まだ私がしていないと信じているのだろうか。聖臣はベッドに座ると、スカートの中に手を入れた。

「名前ちゃんはオナニーなんて覚えなくていい、俺が気持ちよくさせてあげるから」

 薄らと仄めかしたせいで、聖臣はその気になってしまったようだ。中途半端は嫌う聖臣のスイッチを押した罪は大きい。大変なことになったと、私は心の中でため息を吐いた。