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 昼下がり、購買へ向かおうとすると大きな影に引き止められた。「ちょっと」その言葉と共に、私達は教室の隅に移動する。月島君は視線を外しながら早口に言った。

「明日朝練があるから、〇時ぴったりに電話かけてくるとかやめてくれる」

 用は苦情だったらしい。明日に何が控えているかは私も理解している。

「何で?」
「君絶対僕の誕生日祝う気だろ」

 そのつっけんどんな態度に思わず笑い出してしまった。私の顔を見て、月島君は焦ったように表情を変える。私は月島君をからかうつもりはないとわかるように、できるだけ笑わないように努めた。

「確かに祝う気でいたけど、日付変わると同時に電話とまでは考えてなかったよ? もしかして私が月島君のこと好きだと思ってる?」

 これはいつも私の気持ちをそのままにする月島君への意趣返しだ。案の定、月島君は焦ったように眼鏡を直した。

「は? 別にそういうのじゃないし! 何かと押し付けてくる君ならやりそうだと思っただけ!」

 その口調は心なしか荒い。私は月島君が恋愛を意識していることを再確認した後ネタばらしをするように笑った。

「そっか、私は月島君のこと好きだけどね」

 月島君は目を瞬いた後、長いため息を吐いてから別の方を見る。すっかり騙されてくれた嬉しさに私は頬を緩めた。

「そういうのは誕生日に言ってくれる? まあ、前日にそんなこと言うってことはもっと凄いプレゼント期待してるから! じゃあ!」

 月島君は一方的に会話を切り上げて去ってしまった。月島君の誕生日を祝うハードルは上がってしまったわけだが、問題はない。自分は私に祝われると信じて疑わない王子様のために、明日は私が人肌脱ぐとしよう。