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「好きです」

 呼び出されたかと思えば、決まり文句を言われた。問題は相手が影山君であるということだ。彼は私が片思いをし続けている相手その人なのである。影山君と両片思いの駆け引きを楽しむことはできなかったが、思い立ったらすぐに告白するところも彼らしい。私は嬉しさのまま影山君に抱きついた。辺りに人はいないし、影山君も私を好きであるなら嫌ではないはずだ。

 影山君の上半身に顔を埋めて暫く、そっと顔を上げてみる。影山君は抱きしめ返すでもなくされるがままに突っ立っていた。これが私の答えだ。影山君は私に、何と返すのだろう。

 私の視線に気付いたのか、影山君は少し戸惑った様子で私を見下ろした。

「それで返事は何ですか」

 何と雰囲気のない答えだろうか。私は自分の気持ちが少し盛り下がるのを感じながら、それでも影山君が好きだという気持ちを込めて言った。

「普通わからない?」
「わかりません」

 そうだ、影山君は鈍感の馬鹿だったのだ。赤点を取る頭の悪さは恋愛でも健在らしい。

「雰囲気とか読んでほしいんだけど」

 私が小声で零すと、影山君は「フンイキってフインキのことですか?」と不思議そうな顔をしていた。私は恋愛の話がしたいのであって、国語の授業をしにきたわけではない。こうしている間にも私達の間にあったいい空気が次第に薄れてしまっているのではないか。

「やっぱり影山君のこと好きじゃなくなったかも」

 文句を言うように、しかし影山君からは離れずに言うと、影山君は驚いたように声を上げた。

「何でですか! ていうか俺のこと好きだったんですか!」

 ここまで来てわからないなどやはり馬鹿だ。だがその馬鹿らしい所を可愛いと思い始めている私は重症だ。ハグをしてもわからないなら、もう選択肢は一つしかなくなってしまう。軽い女だと思われませんようにと願いながら、私は爪先立ちになって背伸びをした。