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 恋愛とは難しいものだと思う。自分と好きな人だけの関係ならばいいが、人間関係とは複雑に絡み合っているものだ。自分の友達、好きな人の友達、はたまた片思いをする自分に片思いをする人のことまで考えなくてはいけない。今回の出来事において私は脇役だった。恋をしているのは私の友達であり、私は応援する立場なのだ。そのはずが、私の友達の片思い相手――昼神君によって、私も恋愛の土俵に立たされている。昼神君は、執拗に私を構うのだ。私のことを好きだと誰が見てもわかるほどに。自意識過剰だと思われてもいい。私は遂に声を上げた。

「やめてよ! 私の友達が昼神君のこと好きなの知ってるんでしょ!? 何でベタベタしてくるの!」

 昼神君に差し出された手を振り払う。昼神君は少しも傷付いた素振りを見せずに、相変わらず笑みをたたえていた。

「えー、でも名前ちゃん神崎さんのこと嫌いだよね。本当は」

 昼神君の言葉に私は怯む。その通りだった。同じグループにいるから仲良くしているだけで、多分二人だけだったら距離を取る。だが、そんなことは昼神君に関係ないはずだ。反論しようとする私を丸め込むように昼神君は続ける。

「共通の友達がいるから仕方なく付き合ってるんでしょ? 俺が楽にさせてあげる」

 昼神君の言葉はまるで魔法使いのようだ。だがいくら魔法使いでも、人間関係の整理などできるはずがない。

「無理だよ、そんなの……」

 昼神君が何を言いたいのかは少しずつわかってきた。尻込みする私を宥めるように、昼神君はそっと語りかける。

「大丈夫。覚悟はできた?」

 ああ、私は流されるままこの一年間の人間関係をふいにするのだろうか。そう思いつつも、昼神君の誘いに惹かれる私がいた。

「友達に嫌われる覚悟?」
「俺に愛される覚悟」

 私を覗き込む昼神君と目が合う。好かれる、ではなく愛されると言うのが昼神君らしいと思った。私達の始まり、そして友人関係の終わりの合図に、私達はキスをした。