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 若利の家を訪れた日曜日、私は若利の腕を引いてスカートをめくった。映画はもう観終わったし、話題にも尽きてきたところだ。恋人同士の男女が家ですることなど一つしかない。私の粋なお誘いを、若利はよく思わないようだった。

「男に恥をかかせるな」

 そう語る若利の眉間には皺が寄っており、とても興奮しているようには見えない。私はスカートをめくる手を下ろした。

「むらむらしないの?」
「興奮する」

 照れなく言えるところが若利らしい。私は言質をとったとばかりに口を開いた。

「ならいいじゃん! セックスしよ!」
「だからそういうことを言うなと言っているんだ」

 若利の言い分が掴めてきた。若利は女性が皆淑女であるべきと考えているのだ。露骨な言葉を言ったり、自分から誘ってしまうような女ははしたない。では女から誘いたい時は何と言えばいいのだろう。私の言いたいことを読み取ったように若利が口火を切った。

「お前はただそこにいるだけでいい」
「私って存在してるだけで欲情されんの? 怖……」

 揶揄うように言うと、「黙れ」と声がしてソファに押し倒される。最初からこうしていればよかったのかもしれない。若利を誘うには、女を見せるのではなく煽るのだ。

「こういうことは、男が主導するものだと思う」

 若利は棚からトレーニングに使うゴムを取り出すと、私の手首を縛りつけた。

「え?」

 今までセックスに器具を用いたことはない。若利は至って普通の、教科書のようなセックスをする人だった。何が若利をこうさせているのだろう。

「お前の期待に応えられるよう努力する」

 ああ、やはり若利は誘うべきではなかったかもしれない。両手を掲げながら、私は頭の奥で思った。