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「セックスを前提に付き合ってください」

 そう言われた時、私は思わず呼び出した人物を見返した。影山飛雄。バレーの才能で広く知られているが、その実頭のネジがいくつか抜けている男である。

「えっと、どうして? って聞いていい?」

 何故セクハラ発言をされた側の私が下手に出ているのだろうか。影山君は何の違和感も抱いていない様子で語り出した。

「俺今まで好きとかわからなかったんですけど、性的に惹かれる人がそうなのかなって。セックスしたいので、付き合ってください」

 要するに、影山君は私のことを好きではないのだ。ただ私に性欲を抱いただけ。律儀に付き合う所が真面目な彼らしい。好意を持たれているわけではないと気付きつつも、私は有名な影山君から付き合いを持ちかけられたという喜びに抗えなかった。

「いいよ」

 初めてのデートは勿論ホテルだった。慣れない様子で部屋の支払いをする彼を私は別世界のものでも見るような気持ちで見守っていた。性欲をそれと判断できるあたり、影山君は初めてではないらしい。流石に初めてを貰うには責任が重かったので安心した。私も過去に数人の男と寝たことがあった。

 影山君のセックスは情熱的だった。体のために付き合ったのだから、セックスの時に一番盛り上がるのは必定かもしれない。スポーツマンだけあり体は今までの誰よりも鍛えられていて、私は素直に快感を得ることができた。

 影山君は部屋をフリータイムで取った。今日は予定がないと言っていたし、少し間隔を空けてまたするのだろう。私はベッドサイドのスマートフォンを取った。その瞬間に、メッセージアプリの通知が表示された。

「男ですか」

 覗き見ていたのだろうか、影山君の声がした。私は仰向けになってから顔だけを影山君の方に向ける。

「嫉妬? 私のこと好きだったの?」

 体だけの男に嫉妬される筋合いはない。そういう意味での言葉だったのだが、影山君は平然とした顔で「言ったつもりですけど」と言った。思い当たることとすれば交際を申し込まれた時のことだ。「俺今まで好きとかわからなかったんですけど、性的に惹かれる人がそうなのかなって」これだけでは性的に見ているとしか思えない。

「普通告白されたことにならないから、あれ」

 私が呆れて言うと、「じゃあ今から告白した方がいいですか」と真剣な調子で言うので、我が校一番のスポーツマンの告白を聞くことにした。