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夕方の時間に流れる全国ニュースを見て、私は決意をした。画面に大きく映し出されている人物――佐久早聖臣から貰った第二ボタンを、今日処分する。引き出しを開けると、それは受け取った時と変わらない色で輝いていた。
高校時代、私は佐久早君のことが好きだった。告白するつもりはなかったが、最後に思い出が欲しかったのだ。第二ボタンを貰えたのは奇跡に近かった。佐久早君のボタンを欲しがる女子は大勢いただろうから、私は運が良かったのだろう。ただ一番に辿り着いただけの結果を、私は佐久早君の気持ちと勘違いしてしまった。佐久早君は言われたままにボタンをあげただけであるのに、まるで佐久早君も私のことを好きであるかのように錯覚してしまったのだ。
幻想を抱えて五年以上が経った。今や佐久早君は遠い人だ。佐久早君を諦めるにはちょうどいいのかもしれない。そのまま捨てる気にはなれなくて、私はフリーマーケットアプリを開いて出品した。流石に佐久早聖臣のものだとは書かなかったが、学校名は知られている。売れないと思いきや、物好きな人もいたらしい。その日に売れ、私は名残惜しさを感じながらボタンを梱包した。これで全てが終わるかと思えば、事は思わぬ方向に運ばれた。
「すみません。返品したいです」
取引メッセージに表示された文言に唖然とする。いくら成立した取引といえど、これはフリーマーケットアプリだ。仕方なく私は返品を許可した。匿名配送は使えないので、私の住所を送る。素直に捨てていればよかったと後悔していた翌日、インターホンが鳴った。
「はい」
開けるとそこにいたのは宅配業者、ではなく長身の人物である。佐久早君だと気付いたのは額の特徴的な黒子を見てからだった。
「何でここに……?」
佐久早君は無表情に私を見下ろして口を開く。
「待ってた。苗字ならこうすると思ってたから。ラインのアカウント簡単に消すな」
暫く理解できなかったが、佐久早君が出した第二ボタンを見て合点がいった。第二ボタンを買ったのは佐久早君だったのだ。金にするなと怒られてしまうだろうかと覚悟した時、思いもよらない言葉が降ってきた。
「会いたかった」
佐久早君らしからぬ、弱々しい声だ。
「何で私に……?」
恐る恐る顔を上げると、不満そうな佐久早君と目が合う。
「それ説明する必要ある?」
おおよそのことは私にも理解できた。佐久早君が私に気があるというのは、私の勘違いではなかったのだ。だが大事なことは口に出すべきだと思うし、私が佐久早君のことを好いているはずだと疑わないのもまた憎らしい。
「愛され慣れてるなぁ」
思わず口にこぼすと、「それはお前のせいだろ」と返される。高校時代の私の気持ちは筒抜けであったらしい。
「とりあえずこれ、返品するから」
ボタンを握らせ、佐久早君は踵を返す。
「待って! ライン交換しない?」
一か八か私が叫ぶと、佐久早君は今日初めて笑った。
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