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 十月五日、私は一ヶ月前から準備していたプレゼントを渡した。相手は少し驚いた様子であったが、素直に「ありがとお」と喜んでくれた。その顔が見られたならもう十分だと、私は恋心に蓋をしたはずだった。

「名前」

 非常階段に座り込む私の方へ、治が近付く。一人になりたくて来ているのだ。私はいい顔をしなかったが、治は構わず隣に腰掛けた。

「あれ本当はツムになんやろ」

 バレている。私は図星を隠しもせずに黙り込んだ。あれ、とは私が誕生日にあげたボディバッグのことだ。本当は侑にプレゼントしたくて、もう何ヶ月も前から決めていた。しかし当日女の子に囲まれている侑を見たらどうしても渡す勇気がなくなってしまって、同じ誕生日である治に押し付けるようにしてあげたのだ。

「俺から渡したろか?」

 治はどこまでも親切だが、今の私はすっかり臍を曲げていた。

「いい」

 私の頑なな様子を見て治が笑う。治と一緒にいたら、少しずつ気持ちが解れていく気がした。

「本当は侑のために一生懸命考えて買った。……あ、悪いから一応治にも買ってたんやで」

 私の独白に、治は「ほんま?」と目を見開いた。同じ誕生日なのに一人だけあげるのでは悪いからと、言い訳のように買った大したことのない品だ。だが治はそれが気になるようだった。

「くれん?」

 治の目に負けて、私は包み紙を取り出す。中身は何の変哲もないスポーツタオルだった。侑のものと比べれば予算も違うし、選ぶのに時間をかけたわけでもない。しかし治は嬉しそうにタオルを広げた。

「俺はこっちの方がええわ」

 何の屈託もない笑みに、私の方が悪いことをしているような気になってしまう。治には、何の気合も入っていないのに。きまりを悪くした私は「ありがと」と言って顔を逸らした。治はご機嫌な様子だった。