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 部活帰りに校門を通り過ぎると、不貞腐れた顔の侑が立っていた。私と帰りたいのだと言う。周りは大層冷やかしたが、幼馴染のように過ごしてきたこの十数年間で侑が我儘を言うことは珍しくない。今日私を誘ったのだって、バレー部の部員で帰ることに飽きたとかその程度なのだろう。私達は駅からの道を言葉少なに歩いた。自分から誘ったくせに気まずそうな表情をしている侑は、学校の生徒がいなくなっても周りを気にしているようだった。

「花火、綺麗だね」

 私は空を見ながら呟く。そういえば近日に花火大会があると回覧板に書いてあった。町内の花火大会にわざわざめかし込んで行くわけではないが、見たら見たで綺麗なものである。侑は相変わらず不貞腐れた表情で横を向いた。

「つまんな。お前告白くらいできんのか」

 折角ロマンチックなシチュエーションなのだから場を盛り上げろという意味だろう。一方的に恋愛経験を低く見積もられたようで腹が立つ。それに、言わないのは侑も同じだ。

「侑こそしないやんか」
「は? するわけないやろ。お前なんかに」

 心の奥底でやはり侑の誘いを断って部活の友達と帰ればよかったと思った。私は散々噂の標的になった挙句この扱いだ。

「じゃあ何で今日誘ったんや」
「気分」

 侑の気分は気まぐれである。私は「ふーん」と言って頭上の花火を見た。男の子と一緒にいるのに、ここまで何のときめきもない花火は初めてだ。だが侑と花火を見ていると、不思議とノスタルジーを感じるのだった。それは多分、幼い頃侑と治と町内の花火大会を見たことに由来するのだろう。

「思い出に浸ってんとちゃうやろな」

 私の考えを見透かしたように侑が言う。図星を突かれて侑の方を見ると、「男と花火やぞ。ちょっとは緊張しろ」と言うので笑ってしまった。自分は私を真っ先に恋愛対象から外すくせに、私には恋愛対象にしろと言っているのだ。私の態度がさらに侑を刺激してしまったのか、侑は首をすぼめてポケットに手を突っ込んだ。