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 本当に犬が欲しいわけではなかった。ただ好きな人がペットショップで働いていて、私は彼に近付きたかっただけなのだ。千冬は嬉しそうに犬を売ってくれた。私が何かわからないと言えば丁寧に犬の飼い方を教えてくれた。犬が家に馴染み始めた頃、私達は付き合うことになった。

 ペットショップでの顔に似合わず、千冬は乱暴な一面を持ち合わせていた。初めて目にした時は驚いたものだが、それが私に向けられることはなかった。きっと千冬は大事なものを守るために強くなったのだ。

「千冬、ヤンキーみたい」

 私が笑って言うと、千冬はあっさりと「元ヤンですよ」と教えてくれた。不良を嫌う私が千冬への想いを下げないくらい、私は千冬に惹かれていたのだろう。私達が会うのは決まって私のアパートだった。千冬は優しい手つきで私に触れた。私達の間には何もやましいことはなかった。それでも終わりは訪れた。犬が一歳を迎えた頃、私は千冬に別れを告げた。

 犬を飼うことにもすっかり慣れた。初めは千冬目当てに手に入れた犬だが、今ではすっかりペットとして可愛がっている。もう千冬のアドバイスもいらないくらいだろう。別れて暫くが経ったある日、唐突に千冬は訪れた。

「チョコはどうしてるかと思って。元商品には、責任があるので」

 千冬はペットショップでの制服のままだった。勿論犬に用があって来たわけではないことはわかっている。千冬の必死な様子を見て、私は笑った。

「もっとまともな言い訳すればいいのに」

 千冬は自嘲するように顔の力を緩めて「そう、スよね……」と項垂れた。私に対するひたむきさが、今は可愛いと思った。

「元カノには責任はないの?」

 甘い声で言うと、千冬は感動したように目を輝かせた。確信を与えるように千冬の手を引く。千冬は素直に家に上がった。制服でセックスをするのは初めてだ。ベッドへ向かおうとした時、千冬は唐突に止まった。

「あの、ヨリ戻すってことでいいんスよね?」

 私が振り向くと、千冬は切羽詰まった表情で私を見据えている。

「こんなんカッコ悪いってわかってんスけど……うやむやになる前に、どうしてもはっきりさせたくて」

 私は今になって、千冬がどれだけ真剣に私と向き合ってくれていたかを実感した。千冬の胸に顔を預けると、千冬がそっと手を回す。

「付き合おうよ」
「……はい!」

 晴れて恋人になった私達は忙しなくキスをしていた。ペットショップの制服は素早く千冬が脱ぎ捨てた。結局、私達は裸のままぶつかり合った。