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 私と聖臣は海の見える公園に来ていた。側から見たら私達は何の問題もないカップルに見えることだろう。事実、私達は付き合っている。だが私は今日一日の醸し出す雰囲気に怯えていた。今日聖臣が行った場所は、私達が初めてのデートで行った場所ばかりなのだ。この公園は思い入れも深い。聖臣は始まりのこの地で、私達の関係性を終わらせようとしているのかもしれない。

「私達、別れるの?」

 意を決して言葉を発すると、聖臣は不快そうに眉を顰めて振り返った。

「は? 何言ってる」

 だが私がいつものように冗談を言うような心持ちではないことに気付いたのだろう。聖臣は足元に視線を落とし、暫く落ち葉で遊ぶと呟くように話し始めた。

「初デートは緊張してるせいで散々だっただろ。やり直させろ」

 私は返ってきた言葉に目を丸くする。これは、聖臣なりのリベンジであったらしい。

「ていうか聖臣、緊張してたの?」

 私が尋ねると、聖臣は話題を変えようとするように早口でまくしたてた。

「うるさい。お前今からクラスの話しろ。その後に俺が話したら告白だ」

 確か初デートの頃はそのような話もしていた気がする。話の流れまで覚えているのが聖臣らしい。というより、聖臣はあの日の流れを全てなぞるつもりなのだろうか。

「私また告白しなきゃいけないの!?」
「あのデートをやり直す」

 聖臣の表情は真剣だ。どうやら聖臣は初デートを本気で悔いているらしかった。聖臣の真摯さに感心すると共に、私は少し寂しくなった。

「私達もう付き合ってるじゃん。ていうか、初デートも私は十分大事な思い出なんだけど、佐久早はそうじゃないの?」

 真っ直ぐに聖臣を見つめる。聖臣はまた視線を足元に落とした後、言いづらそうに続けた。

「……お前が、あんまり楽しそうじゃなかったから」

 聖臣はそんな些細なことを気にしていたのだろうか。私は脱力して話し出した。

「それは緊張してたからだよ」
「そうか」

 聖臣は顔を上げ、私と視線を交ぜる。あの日の流れを再現するよりも、ずっといい雰囲気になれていると思った。このまま聖臣と落ち着いた空気を楽しみたいと思っていた時、聖臣が突然それをぶち壊す。

「でもやっぱり初心を忘れるな。お前今から緊張しろ」
「ええ!?」

 いきなり緊張しろと言われても難しいものがある。当時と違って、聖臣は信頼のおける彼氏だ。今更緊張するような関係ではない。私の様子を見た聖臣が、隣から私を覗き込んだ。

「必要なら協力する」

 それは一体何をするつもりなのか、と言いかけて息を呑む。いくら慣れ親しもうが、聖臣は私の好きな人に変わりない。少しでも触れられようものなら、私は忽ち緊張してしまうのである。聖臣は見透かしたように手を伸ばした。